涙色アクセ

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「藤野さん…あの、ここって本来結婚指輪とか作る感じの所じゃないんですか?」 「それだけじゃないから心配しなくていいよ?」 紙コップに飲み物を入れに行った師匠の背中をチラ見してから、早速カタログに目をやった。 色んなアームのデザインがあったが、ゴールドで細工が施してある物に目が止まる。 普段使いにしても邪魔になりそうじゃないし、遠目から見てもさり気ない感じでイヤミがない。 「それフィレンツェ細工みたいで綺麗だね」 「可愛いですよね」 「すみません、これに石乗せるとしたらどんな感じがいいですか?」 すぐに店員さんを呼んで相談を始め出す師匠に、ビクッとしてしまう。金額もよく分からないし、結婚指輪でもないので安い物で構わないのに…。 「浜田さん!これなんかどう?」 見本の写真には小さな石が三つ乗っていて、細工とのバランスがとてもいい。 「素敵ですけど…」 「けど?」 私が言いたいのは『値段』だ。 ケーキを買うみたいに気軽に選べないし、付き合うと決まったばかりの師匠に遠慮もある。 「あ…会計は済ませてあるから心配しなくていいよ。ここで俺時計も買ったし、会員様でしょ?」 すっかり『会員様』というフレーズが気に入ってるようで、ニヤッとする師匠を見ると、まあいっかと何だか安心してしまった。 「アームの時点で気に入ったのは初めてです。細工も素敵でそれがいいです」 「良かった!じゃあ、これにしよう!」 師匠が書類にサインしてる間、私は紙コップのコーヒーを飲みながら様子を伺っていた。 段々と現実味が増してきて『本当に大丈夫?』と不安になる。 セミオーダーのリングなんて貰った事ないし、こういうのは婚約した時だけだと思っていたので、新たな扉を開いたようにソワソワしていた。 お店を出てから大きく深呼吸すると、早速師匠に聞いてみた。 「私あんな豪華なお店初めてで…大丈夫でしょか?」 「えっ!?心配しなくても素敵に仕上げてくれるよ?」 「いえ、そこじゃなくて。高価な物頂いてもいいのかなって」 「あぁ。ダイヤのように見える浜田さんには似合うと思ったから…」 師匠が言うと嘘っぽくなく、シレっと車の中に入ってしまったので私も慌てて助手席のドアを開けた。
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