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車が走り出すと、何となくだけど私の自宅方向ではない気がする。
今日は師匠にサプライズをされたばかりだし、何を考えているか見当もつかない。
私達は付き合う事になった…それだけでも不思議な感覚なのに、普段と変わりない横顔にむず痒いような違和感もある。
「ふぅ…ちょっと限界かも。普段やらない事をして頭壊れそう」
「私も藤野さんがいつもと違って内心驚いてました。無理…してほしくないんです」
見た目では分からなかったが、師匠なりにアレコレ悩んだみたいだ。
微笑んでいるか、たまにアドバイスをしてくれる感じで、自分から積極的に動く印象はない。
食べ物屋さんに行こうと言われた位が関の山だ。
「今浜田さんが恋愛気分じゃないの分かってたけど、ボヤボヤしてたら双碁に奪われると思って勉強してみたんだよね」
「勉強?まさか本とか言わないで下さいよ?」
「うん。本と双碁。でも俺のキャラじゃないし、初めは楽しかったけどボロが出てきた」
十分私は姫気分を味わったし、師匠が頑張ってくれたおかげで次に進めそうな気もする。
「藤野さん、私凄く嬉しかったです。でも自然体でお付き合いしたいので…今日は帰りませんか?」
「そう…だね。ちょっと一呼吸してまた仕切り直ししよう」
今まで彼に私から提案する事なんて殆どなかったし、自分の意思が伝えられるこの環境も私には心地いい。
この人だったら長く隣に居れそうな予感がして、ネックレスのチャームを握り、家までの道は株の話で盛り上がっていた。
ベッドに横になると頭に浮かんできたのは藤野さんの事。
清水さんではなく、彼に切り替わっているのは我ながらゲンキンだと思って起き上がった。
「涙色チャーム…いい人と巡り合わせてくれたのかも」
コーヒーを淹れソファに座ると、次のデザインのアイデアが湧いて来て慌ててメモしておいた。
恋愛が上手くいってると仕事は全くノータッチだったのに、全く違う展開で嬉しい戸惑いを感じペンを走らせた。
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