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「まだだよ。それはお互いの同意の基でだ。お前と違って流れとかじゃないから」
ピクッと眉が動いた双碁さんは、ナポリタンを盆に乗せたまま気に入らない様子だ。
「はいはい。泉ちゃん、安心だね」
師匠をチラッと睨んで双碁さんが戻って行くと、何事もなかったかのようにパスタに手をつける師匠、それに比べて私は上手く喉を通らない感覚だった。
コーヒーは飲まずに店を出て、背中を見つめながら後に続く。
彼のマンションに戻り気が付けば玄関口に居た。
「上がって?コーヒーいれるから」
ここには来た事はあるが、株の話しで師匠の仕事部屋メインだったが、今日はリビングに通された。
皮張りの黒いソファは座り心地もよく、必要最低限の物しか置いてなく、スッキリとしていて生活感はあまりない。
食後のコーヒーでホッとすると、師匠宅にも関わらず気持ち寛いでしまった。
「ちょっとだけ仕事片づけるから適当にマッタリとしてて」
部屋を出ていったマイペースな師匠に一瞬驚いたが、まぁこんな感じが私にはいいかも…とテレビもつけず景色をボーっと見ていた。
仕事を終えた師匠が戻ってくる頃には、空の色が少し変わっていて私はウトウトとソファに身を預けていた。
「ごめんねお待たせ」
隣に座った師匠は、コーヒーを飲みながら窓の外を見つめている。
「日が落ちる所ってなんか好きなんだよね。頭を空にして次の日に向けてリセット出来る気がする。でも最近は泉ちゃんの事が残ってて、次の日になっても同じで…蓄積されていった」
隣にいるのに何だか顔を見づらい。
こんな時どんな感じで接したらいいのか、相手が師匠な分対応策が分からない。
私も黙ってじっとしていると、日が落ちていき夜の空に変わるまでにどちらからともなくキスを交わす。
そのままゆっくりとソファに身を沈め、日が暮れた頃にはお互いに服を着ていない状態だった。
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