Kussy

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「あのぅ、マーカー貸してもらってもいいですか?」 ずっとタイミングを見計らってくれてたみたいで、少し控えめな声だった。 「はい、どうぞ。すみません…私初めてでメモしないと分からなくって」 「随分熱心だな…って。僕は筆記用具忘れてしまって、何も書けずにいました」 「えっ!そうだったんですね!ここにペンケース置きますので、自由に使って下さい、予備も入ってますから」 「有難うございます」 メガネをしていて優しそうな人だった。細身で何となくインドア派なのが伝わってくる。 私よりも少し年上かもしれないけど、隣がまだ同世代で適度に会話が出来る人で助かった。 前列の人達だと話について行けなさそうだし、中間の女子達も頭がいい気がする。その付近にいる男性達は話しづらそう…。 なのでほんわかした癒し系の隣の人が、この中では天使のナースのようだ。皆はトイレに行ったり雑談したりしていたが、私だけはペンを走らせ続け休憩時間が終了した。 午前と午後2時間ずつに分かれていて、昼休憩が一度入る。あと1時間弱だけど飲み物を買いに行けなかった私は段々と喉が渇いてきた。 室内が乾燥しているのもあるけど、緊張もしていたのでその分更に加速してるように思える。 気にしないでおこうと自分に言い聞かせても、喉に神経がいってしまう。 『飲み物買っておけばよかった…』話は銘柄選びに入っているが、イマイチ集中できない。 初日だし株の内容とザックリと説明している雰囲気だが、私は皆より遅れをとってる分余裕がない。書き込みの回数も減ってきて、ジュースが飲みたい!が頭を占領している。 帰りに本でも買って、今日の説明復習し直そうと諦めモードに入り壁に設置された時計を気にするようになっていた。 『トントン』 と指で肩をつつかれ隣を見ると、紙に『飲みかけですが、良かったら飲みますか?』と走り書きされていた。 藁にすがるような気持ちでウンウンと2回頷くと、渡されたペットボトルを口にした。 『美味しい…!喉に身体に染み渡る…』 結構飲んでしまってから人の物だと思い出し、後でお返ししますと紙に書くと、それからは説明に耳を傾ける事が出来た。
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