第1章

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「それにしても、手前にも傾いてるんだよな。そうでなければ落ちるって部分の説明がつかないし」  迅の指摘にまた男子たちはそろっと一歩下がるのだった。考えれば考えるほどこの本棚は危険すぎる。切り取った奴は本を仕舞いたい一心だったのだろうが、後のことを一切考えていないのは確かだ。 「それに違う場所から落ちるってことは、この三段目に限って言えば物理の側が下に傾いていて、化学の側は上に傾いているってことよね」  冷静に千晴が指摘するが、男子たちはまたもやそろっと後ろに下がってしまう。それにしても千晴は度胸がある。倒れる可能性をばんばん指摘しているというのに、まったく避難しようとしない。こうも冷静に対処されると男子としては立つ瀬がないのだ。だから科学部二年の男子たちは千晴に恋することはない。 「そうだよな。三段目の傾きはそれで確定だ。けれども毎回同じ場所ではないんだろ?この棚のどこかというだけでさ。そうなると、他の段は違う傾き方をしているんだな」  これ以上は逃げ場がないと、背中が後ろの本棚に当たった莉音は覚悟を決めて前に出た。それに今のところ一度も崩れていないのだ。この大掛かりな落下装置は本を抜くという行為以外でそう簡単に発動しないもののようである。 「つまりガタガタなんだよ。見ろ、抜いた奴の適当さもよく解る。上との整合性はつけてちゃんと抜き過ぎないようにしているが、横はかなりの数をぶち抜いている」  亜塔がざっと切られた部分を確認して言った。横に目を走らせていくと、あるところは三か所連続でないのだ。いくら長い本棚といっても、分野が変わるところで別の棚になっていた代物だ。これは歪みが発生して当然だと思える。 「こうやると傾きが確認できるぞ。やっぱり下る部分と上る部分が存在している。それに僅かだが手前に傾きを感じる」  いつの間にか棚の前に舞い戻った優我が指で棚の板をなぞって指摘した。普段からこの前にいるのに、いまさら怖がるのは変だと気づいたのだ。
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