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「5度か。まあ普通は気にならないよな。じっくり見てないし」
仕方なく桜太がフォローした。それに普段から目にしている人ほどこういう些細な変化に気づかないものだ。悠磨も安心したように頷く。
「傾きがあったということは、抜いた力が伝播するのも不思議ではない。そもそもここにある本は一冊が重いからな。ちょっとずつ伝わっていくうちに大きくなるんだ」
亜塔は先ほど抜いた本をじっと見つめた。かの有名なアインシュタインについて書かれた本だが、専門書であるため厚くて重い。これ一冊でも力を加えるには十分だろう。
「あれだな。よく傾いた本を取ろうとして横の本を落下させてしまうのと同じ原理だ。ただここでは微妙な傾斜だったせいで横が落ちるのではなく、結果として角度が変わる部分で落ちていたわけだ。ぎゅうぎゅうだったところから一冊抜いているから、反対側の傾斜にも影響していただろうし。向こうからも押されていたと考えればますます落ちる原因になる」
莉音がまとめたことで誰もが納得した。要するに抜いた力が最も集まる交点落下が起きているのだ。手前に傾いている影響で、落ちないはずの本も力を受け止めきれずに落下してしまっていたというわけだ。
「でもねえ、どうして落ちたままになってたのか?これは解ってないよね。さっき大倉先輩が抜いた時も、本が落下する音はしていたんだし。抜いた人は気づかないはずないのに」
千晴が根本的なことを訊いた。たしかに本が落下することに対しての説明は成り立つが、どうして落ちたままなのか解らない。
「まさか自然と落下する地点もあるのか?」
悠磨は恐ろしいとばかりに棚を見上げる。そこまで角度がついているのならば速攻で職員室に訴えに行かなければならない。
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