第1章

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「ひょっとして」  いきなり迅がぽんと手を打った。 「どうした?」  桜太は古典的な迅の動きに呆れつつも訊く。 「この棚をよく利用しているのって、優我だよな?」  迅がまた勝手に本を抜こうとしている優我を指差した。気になる本があると手に取らなければ気になって仕方ないのだ。 「えっ?」  優我はどうしたと振り向いたが、その拍子に本が抜けた。するとどこかで本が落下する音がする。 「ほら。こうやって優我が起こしている回数は多いはずだ。優我、お前は今までに落ちていた本を拾ったことがあるか?ないよな?今まで普通にこの問題に取り組んでいたんだからさ」  迅が探偵のように優我を指差したまま問い詰めた。 「うっ――ない、です」  初めはどういうことかと目を丸くしていた優我だが、自分が犯人だと自覚したのだ。本を抱きしめて小さくなってしまった。これだけ大騒ぎして犯人が自分とは恥ずかしさで一杯である。 「――一件落着だな」  桜太はやばいと察知してくるりと出口に足を向けようとした。 「まあ、待てよ。科学部部長さん。ここは落とし前をつけるのが筋ってもんだよな」  しかしそうはさせないと悠磨が桜太の肩を掴む。口調はもうヤクザさながらだ。 「もちろんでございます。何をしましょうか?」  仕方なく桜太は低姿勢に振り向いた。謎を解決したはずなのに悲しい。 「俺たちに出来ることにしてくれよ。本棚を修理しろとか本を総て出せとかいう力仕事は無理だからな」  なぜか亜塔がさっさと注文をつける。やる気はあるのだろうが、どうしてそういう言い方になるのか疑問だ。桜太は科学部の人気がまた下がるのではと懸念する。
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