遠い記憶

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虎太郎とミナが会話を交わしている時間も惜しかった。 もう一度写真を確認したくて、ミナのスマホを取り上げる。何か喚いているが知ったこっちゃない。 「失礼します」 努めて冷静な口調でそう言うと、蓮登は周囲の視線を気にすることもなく全速力で愛車まで走り、奏の居るところに駆けつけたのだった。 蓮登は自宅である、高級マンションの地下に車を入れ俯いている奏を連れて部屋に向かう。 何か言おうとするのを制して、半ば強引に浴室へと誘った。 「服調達してくるから、ゆっくりあったまって」 奏が頷くのを見届けると即座に部屋を出る。 そうでもしないと、自分に歯止めが効かなくなりそうだったから。 水をたっぷり含んだ邪魔な布を引き裂いて、冷たくなった肌を温めて―― 浮かんできた邪な妄想を頭(かぶり)をふることで散らす。 適当に数店の服と、彼女が好物を買ってマンションへと戻った。 「奏、ただいま。  のぼせてない?」 ガラス扉の向こうに声を掛けた。 「うん、大丈夫」 その返事に、無意識のうちに整った顔を歪めていた。 彼女が『大丈夫』というときは、絶対に大丈夫でも平気でもない。 ただ、胸の内を説明する言葉が、勇気が持てなくて誤魔化す為に便利に使っているだけだということを、幼馴染である蓮登はよく心得ていた。 「服置いておくからどれでも好きなのを着て出ておいで」 言うと、返事も聞かずにその場を離れ、彼女の為に温かいココアを用意する。 しばらくすると、奏は蓮登が見繕った愛らしいワンピースを着て、リビングに姿を現したのだった。
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