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風呂から上がった奏は改めてその高級感あふれる、お洒落な広い部屋を見渡した。
家具一つで私の家賃何か月分払えるんだろう――
なんてことを無意識に考えてるのは、きっと今日会社が倒産したせいだ。
それでも、蓮登が買ってくれた淡いオレンジ色のワンピースを着たせいか、ゆっくり広いお風呂であったまったからか、少し気持ちが落ち着いた。
蓮登もスーツを脱いで、チノパンにシャツというカジュアルな格好になっていた。
伊達メガネをしていない彼の顔も、相変わらず奏のドストライクで、遠い昔に振られたことを覚えていても尚、その顔で微笑まれると勝手に心臓が高鳴ってしまう。
「ココアをどうぞ」
差し出された、白いカップの中にはヴァンホーテンのココアに白いマシュマロが浮かんでいるもので、奏は相好を崩す。
「久しぶりだ、これ」
「普段は飲んでないんだ」
「こんなに甘いもの常飲してたら太っちゃうよ」
久しぶりに飲んだココアは、期待通り甘くて美味しくて奏はホッと心が軽くなった。
「でも、本当にごめんね、颯馬――じゃなくて、蓮登、さん?
何か予定があったでしょ?」
「別に。
出勤時間はまだまだ後だし、ランチにくらい連れて行くよ」「だ、ダメだよ。
この服も可愛くてすっごく好みだけど――あのね、今朝突然会社が倒産してたの。
だから、次の仕事が決まるまで無駄遣いしたくなくて。
他の服はちゃんと返品してくるから、お店教えて? 私、本当にお金が――」
「ランチも服も俺からのプレゼントだから、素直に受け取ってくれて構わない」
「嫌だよ。
私、そんなこと望んでたわけじゃないの。ただ、今朝あまりにもびっくりして、頭が真っ白になっちゃって、ふらっと歩いていたら自分でも良く分からないうちについここにたどり着いてしまってたってだけで」
途端、ふわっと後ろから抱き寄せられた。
いつの間に背後に回っていたのか、ココアに夢中になっていた奏はちっとも気づけなかった。
さっぱりとした香水の香りがふわりと漂う。
「奏が無意識にせよ、無事にここにたどり着いてくれて良かった」
掠れた声が耳に届いてドキッと心臓が跳ねる。
ひょっとしたら蓮登はホストだから、女性とのこういう距離感になれているのかもしれないけれど――と奏は考える。蓮登に振られて以降さっぱり恋心が宿らなかったせいで、極めて経験不足で奥手の奏にとっては、刺激が強すぎる。
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