遠い記憶

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「先生、好きです」  本気だった。  ありったけの気持ちをこめて、私はアルバイトで買った高級チョコレートを彼に渡した。  彼は、伊達メガネの奥の形の良い瞳を一瞬丸くしてそれからふわりと微笑んで、ぽんっとその大きな掌で私の頭を叩いた。  あったかかった。 「ありがとう、奏(かなで)」  ほんの一瞬、間があった。  でも、それだけ。先生はいつもの顔に戻って 「宿題、全部やったか?」  と聞いてきた。  考えてみれば当たり前なのかもしれない。  当時、私は高校二年生。  私の親に頼まれて、家庭教師をやってくれていた幼馴染でもある「先生」は大学生。  彼にしてみれば、私なんて全く持って恋愛対象ではなかったのだろう。  もちろん、律儀な彼なのでホワイトデーには両手で抱えきれないほどのたくさんのお菓子をくれた。けれども、そこから恋愛に発展したりはしなかった。  こうして、私の初恋は、片想いのまま終わっていったのだ。
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