遠い記憶

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ということは―― そういうことだったのかと虎太郎は合点する。 何年も夜の世界に君臨し続けているというのに、本命の彼女が出来たという話をとんときかないのは、つまり うちのナンバーワンとオーナーがデキているから? そんな思考を引き裂くかのように着信音が響く。 知らない番号だった。 「虎太郎、悪いんだけどその子をその場に引きとめておいてください」 蓮登の声だ。 相変わらずの丁寧で穏やかな口調だが、電話を切る前に低いエンジン音が聞こえたことと、すぐに返事も聞かずに電話を切られたことの両方から、彼の焦りが伝わってくる。 それに、『すべての女性はレディです』と断言し、相手の年齢が何歳であろうとも女性に対して子供扱いしないことで有名な蓮登が「その子」と言ったことが微かに気になった。 それで虎太郎は、好奇心に負けてずぶぬれの女性に声を掛けたのだった。 「どうしたの?  生憎、うちは一部しか営業しないんだよね。  今の時間から開いているホストクラブもあるから紹介しようか?  それとも、迷子なら近くの交番まで送っていってもいいよ」 女性は弾かれたように顔をあげ、何度かまばたきを繰り返した。 黒い大きな瞳が印象的で、化粧はすっかり落ちてすっぴんになっているのにそれを気に掛けさせないほどの美人だな、と、虎太郎は思う。
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