遠い記憶

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ハンドルを握った蓮登は、スーツを羽織って俯いている奏をそっと盗み見て心の中でため息をついた。 しばらく会わない間に、幼馴染の少女はすっかり大きくなっていた。 しかし、それは見た目だけなのかもしれない。羞恥心を持ち合わせた女性なら、こんな身体のラインを露わにしたこんな格好で都心をうろつくことなんてないはずだ。 先月ハニービートに入店したばかりのホストの客が、ストーカー化して問題になっていた。 解決方法を探るべく、オーナーであり先輩のミナこと、湊 英介(みなと えいすけ)と、顔なじみの刑事と一緒に六本木にある某ホテルのロビーで会話を交わしていたのがついさっきのことだ。 そこに、虎太郎から湊宛にメールが届いた。 「あら、蓮登。この子は、例のストーカーじゃないわよね。  また新しいトラブルの火種なの?」 そんなことを言いながら、虎太郎に電話を掛ける前にほんの一瞬、ちらりとミナがその画像を見せてくれた。 鮮明に映っているわけではない。 真正面からの写真でもない。 それなのに、ストレートの黒髪や、想いに耽る横顔を見た途端に蓮登にはわかってしまった。 ここ数年、忘れよう忘れようと努力してきた、愛しい彼女だと言うことが――
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