『恋という死に至る病』

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 どちらでも、俺には嬉しかった。生葬社には、俺の居場所がある。  百舌鳥の彼女、伊庭かおりは、時折、姿が消えていた。百舌鳥がいないと、そのまま消えたままになる。  伊庭の両親の前でも同じで、両親は状況を理解したうえで、娘である伊庭を引き取りたいと申し出ていた。両親が、安定するまで、ずっと一緒にいたいという。  俺は、どちらがいいのかは、さっぱり分からないが、百舌鳥は両親に任せる事にするらしいと彼女達は噂していた。  もう全員出社したというのに、ドアの開く音がする。 「おはよう」 「儀場様、おはようございます!」  珍しく儀場が生葬社に来て、店長室で仕事を開始していた。 「……儀場さんって、ここで仕事をする事もあるのか……」 「百舌鳥さんに生葬社を任せるまで、ここを仕切っていたのは、儀場様ですからね」  事務室の彼女達は、儀場を慕って、ここに転属してきたらしい。  儀場は見た目がいいが、支払い方法もあって、俺にとってのイメージは最悪であった。儀場を慕うなど、俺は考えた事もなかった。 「でも、儀場様がここに来ているということは、回収屋が何か問題を起こしているということね」  儀場は、回収屋と対立している。何の問題が発生しているのだろうか。 第八章 恋という死に至る病  回収屋は、異物(インプラント)を売って生計を立てている。生葬社は公務員であるので、異物(インプラント)を売っているわけではなく、ノルマの設定などもない。解決もしくは処理には、報告書を作成し、様々な事例はまとめられ保管されている。生葬社が何故存在するのか、明確には設定されていないが、かれこれ百年以上の歴史を持っていた。  回収屋は、より完全な、異物(インプラント)にすることで、価値を高めて売り捌く。  儀場は、店長室で机によりかかり、古い資料を読んでいた。 「……遊部君が、大量に異物(インプラント)を回収したのでね、価値が暴落してね……珍しいものや、より完璧な異物(インプラント)以外は金にならなくなっている」  回収屋は、だから、生葬社を憎み、嫌がらせをするのか。生葬社は、異物(インプラント)自体に価値はないので、暴落で影響は受けない。
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