『恋という死に至る病』

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『それだけではなくて、私は今もSAの近くに行ってしまって、遠方から来た車を見ると引き寄せられます。結果、その車は急ブレーキになります』  結果、事故多発地帯が発生してしまった。 「教えてくれて、ありがとう」  綾里はにっこり笑うと、満足して消えて行った。やはり、笑顔が物凄く可愛かった。この笑顔は、俺の想像を超える。 「遊部さんも、もっと笑顔でいてくれたらな。そうしたら、皆が幸せなのにね。俺の母さんにも、父さんにも遠慮して営業スマイルだけですからね。こう、今みたいに心から笑顔を……」  どうも、昂は俺と綾里が重なって見えているらしい。  でも、綾里は言わなかったが、もう一つあった。綾里が魂まで入れてしまった、その写真を撮った彼がいる。綾里の言葉で、世界を見ていると、毎回、SAへ車で来ては、綾里の写真を撮っていた青年がいたのだ。  仕事で来ていて、写真は趣味だと言っていた。その彼が、綾里が学校を出たら、自分の街に来て欲しいと言ったので、綾里は生霊になってしまったのだ。  綾里には、相手に写真を撮りたいと思わせるほどの美しさがあった。綾里が真剣に思っていたとしても、相手が同等に思っていたかは分からない。  雨戸を閉めて、布団に寝転ぶと天井を見る。古い家屋で、天井にも年季が入っていた。この木目が、見ようによっては、人の顔に見えたり、犬に見えたり、きつねに見えたりもした。  その内の一人、爺さんは、じっと俺を睨みつけている。これは、目の錯覚ではなく、確かにいる。 「……昂、この家は、異物(インプラント)の類かな?」  どうも、あの爺さんは、俺に恨みがあるらしい。爺さんの口が、もごもごと動いているが、よく分からない。入れ歯がないようで、口元がふにゃふにゃとしてしまうのだ。  何にでも見えそうな木目で、どこか星座のように何でも連想してしまうが、動くのが気になる。  昴は、俺の横に寝転ぶと、天井を見ていた。 「……異物(インプラント)なら、俺が家に入れませんよ。人に密着している家などは、人の記憶が留まるものですよ」  あれは、記憶なのか?どうも、リアルタイムで文句を言われている気がする。 「築百年は過ぎているよね、この家。丼池が来たがっているのではないの?」  丼池は、建築の大学に進んでいた。将来は、一級建築士になりたいそうだ。
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