『恋という死に至る病』

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「成己ですか?でも、この家は成己の趣味かな……遊部さんは、この家に住みたいですか?」  どこが嫌かと問われると答えがないが、住みたくはない。  あえて理由を付けるのならば、この家は、理想がない。何か芯にコンセプトがあるような家がいい。ただ住める家ではダメなのだ。  俺の実家の天井など、梁が俺よりも太い。縄で巻かれた柱は、縄こそが最適で最良という、強い信念を感じる。それに、縄の巻き方が、無駄がなく、しかも美しい。ただ巻くのではなく、いい仕事であるのだ。  俺の家にも納屋もあり、離れもあるが、そこに理想は感じなかった。 「そうか、この家は、離れだ」 「え!」  廊下から声がして、この家の主が入ってきた。 「声が聞こえたので、お茶をお持ちしました」  俺達は仕事で来ているのに、客に気を使われてしまった。 「その通りなのです、この家は離れです。横に母屋がありまして、台所や風呂、トイレなどがあまりに古いので、離れで生活しています」  いや、ここでも築百年は経過している。では、母屋は何年のものなのだ。 「母屋、霊障があるのですか?」  どうにも、おかしい。 「……はい。一族がよく会議しておりまして、生きている私どもは近寄れません」  家自体に生命力が薄いのに、この家には異物(インプラント)に近い能力がある。それはここが離れで、母屋に力があるせいか。 「主人、もしかして婿ですか?」 「…………はい」  夜中に主人が茶を持ってくるなど、あまりない。主人が持ってくるのならば、むしろ酒であろう。 「では、一緒に母屋に行きましょう」 「ええ?」  嫌がりながらも、俺が外に出ると、主人も横についてきていた。はっきり嫌だと言わないところが、やはり気を使っている。  そっと玄関から出て、庭を歩くと、横の生垣を抜ける、そこには大きな農家があった。  藁屋根は、今時珍しい。保存状態もいいし、手入れもされている。 「誰かお住まいですね?」 「義母が住んでおります」  それでは勝手には入れない。 「昂。近寄ってはくるなよ」  やはり、母屋は異物(インプラント)に近い。 「おい、婿様を追い出すような家なら、燃やす」  俺は本気で家に聞いてみた。家が、瞬間揺れていた。それは家の言葉で、直訳する。 『子孫を死なせる婿などいらん』  娘を死なした事を言っているのか。 「人を守れない家ならば、燃やす」
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