『恋という死に至る病』

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「いたたた」  痛いが、その前に、もっと気になる事がある。俺の手に触れた感触は、土の地面であった。周囲は夏草に囲まれていた。 「娘の白骨ね」  鹿敷が、骨壺?に納めていた。その前に、白骨ならば、警察ではないのか。  丼池は、昴を起こすと、松葉杖を探した。しかし、昴も短時間ならば歩けるほどに回復していた。松葉杖も待たずに、昂は立ち上がると、周囲を見回し激変に唖然とした。まず、寝ていた家が消えていた。空き地で、俺達は眠っていたのだ。しかも、その傍らには、白骨があった。  昴は、ふらふらと車まで歩くと、助手席に座った。昴は、浴衣であった。俺も自分の姿を見ると、ステテコであった。  このステテコは、幻?夢?の中でいただいたもので、紺地にトンボの柄になっていた。藍染の作務衣にも似ている。ここが現実で、どこまでが夢であったのか分からない。  伸びきった夏草だが、その周囲には生垣が残る。土をよく見ると、土台が残って草に埋もれていた。その石は、黒く煤けている。 「うむ、当たりか」  ステテコ一枚で納得している場合ではないので、着替えを探すと、木の上に俺の服がかかっていた。 「どうして木の上?」  木に登って下を見ると、昴の着替えは車の天井に、畳まれて置いてあった。 「昂、着替えは車の天井にある」  ズボンを取り、取り敢えず履く。シャツは更に高い位置にある。更に上って、靴下を履くと、靴下は洗ってあった。靴下から石鹸の匂いがして、さっぱりとしている。  シャツを手に取ると、俺を心配して見上げている丼池が、かなり下に見えた。 「ああ、いい家だね」  木の上から、母屋がそこからよく見えた。母屋は健在で、庭で年老いた女性が、若い男性に手を引かれて葬儀社に挨拶していた。 「あっちは、生きた世界だったね」  離れであった家は、今は燃えて跡形もなかった。娘は、半分埋められて白骨化していた。最後に両親は、娘を供養していなかったことを、悔やんでいたのだろうか?  夏草に埋もれてしまって、娘を誰も探していなかった。そもそも、娘は火災の前には亡くなってしまっていた。  木の上で景色を眺めていると、下に若い男性が立っていた。  若い男性は、ただ立っているだけではなく、俺に向けて、幾度もシャッターをきっている。俺は半裸であったので、慌ててシャツを着こんで下に降りようとした。 「慌てないでね、危ないよ」 「写真はやめてください」
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