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注意よりも、俺にカメラを向けるのを、止めて欲しい。
枝が折れて、俺の足が滑る。慌てて支えてくれた腕は、丼池のものであった。俺をしっかりと空中で受け止め、両足で着地させてくれた。
若い男は、ただカメラを向けシャッターをきっていた。ここで、俺が大怪我をしても、その瞬間まで、この男はカメラを向け続けたであろう。カメラを愛していても、やはり被写体に対しては人間らしい思いはないのか。
この男が、被写体を思っていれば、綾里も少しは浮かばれる。
「君、きれいだね?もう少し、写真をいいかな?」
落ちたところを救いもせず、シャッターを切ることを止めなかったというのに、まだ、俺に近寄れるのか。
「撮った写真は、被写体の許可を得られない場合は、全て削除ですよね?」
カメラを持っているのならば、マナーは守って欲しい。
「嫌ですよ。撮ったのはボクの作品ですから」
こういう奴がいるから、カメラが嫌われるのだ。撮られた事を怒ったならば、潔く、諦めて削除だろう。
それに、関わらなければ、インターネットの動画を見ているように、傍観者でいられるなど、実世界では悪だ。
「では俺に、もうカメラを向けないでください!」
俺が立ち去ろうとすると、男が笑った。
「今の半裸?ゲイサイトに流そうかな……それとも、もっといいトコロがあるかもね。家にも道路にもファンが来るかもよ。もう夜道は歩けないね」
思い通りにならなければ、脅しでくるのか。
「先ほどの行動と、今の言動の映像は、動画で流しておきましたよ」
昴が、タブレットで再生回数を見せてくれた。いつの間に、もう三ケタの人が再生していた。そんなに面白い映像であっただろうか。
「すぐに消せ!」
「撮ったのは、ボクの作品なのではないのですか?」
再生が四ケタになった。どうも、嫌なカメラマンと、男の天女らしい。男ならば、天女ではないであろう。
映像を再生してみると、俺が木の上でシャツを取るところからであった。上の枝の先にあったので、背伸びしながら小さく飛んだ。そして、枝に着地した。
枝に着地であるのだが、枝に降りて来たように映像では見えていた。手に持ってから、ふわりと落ちてきたのはシャツであるのだが、まるで羽衣?と書き込みがされていた。それで、男の天女となったらしい。
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