『恋という死に至る病』

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 鹿敷は、自身が引き受けた仕事であるので、自分で家に伺おうとしたが、辿り着かない。話を聞いた他の社員が車で向かったが、誰も、依頼主の家に辿り着けない。カーナビで検索もできるし、電話も掛かる。なのに、現場に到着できないのだそうだ。  俺も話を聞いて半信半疑であったが、俺の場合は更にまずい状態に陥っていた。生葬社にも、家にも戻れないのだ。  昴も、俺から離れると眠ってしまうという問題を抱えているので、一緒に付いて来てしまっていた。 「昂、立てるか?少し、歩いてみてもいいかな?」  車での移動がいいが、燃料がもたない可能性も高い。この数時間、車で走りっぱなしであったが、ガソリンスタンドは一軒も無かった。というのか、建物自体にも遭遇していないのだ。  昴に手を貸し立たせると、昴は松葉杖で歩き出した。  昴は、一年近く眠ったままだったので、かなり体力も落ちていた。あまり、昴に無理をさせるわけにもいかない。  暗くなる森の道から、俺は、土手を降りると懐中電灯を頼りに野草を探した。 「きのこ類ばかりだね」  俺の実家の、裏山を思い出す。食べられる野草があって良かった。 「腹が減ってしまってさ」  土手を上ると、車からライターを出した。 「……何ですか?このグッズは?」  昴は、車から出て来た鍋と、水を冷たい目で見ていた。 「水は、途中の湧水だよ。鍋は、山登り用でさ、地図を見たらかなり山奥であったから、最悪、登山かもなって思って準備した」  小型のコンロもあったが、車は来ないので、道路で焚火をしてしまった。 「カンパンとスープ、どうぞ」  昂は、道路に胡坐をかいて坐ると、缶詰のカンパンを食べていた。 「遊部さん、見た目は育ちが良さそうなのに、山で蛇を捕まえて食べそうですよね」  蛇か、食べた事がない。調理方法は、うなぎと同じでいいのだろうか。 「蛇か、いるのかな……」 「冗談です。本当に捕まえないでださい」  俺は、育ちが良いわけではない。ど田舎の山奥の育ちで、家柄も普通であった。 「さてと、コーヒーね」  空腹も紛れたし、コーヒーはおいしい。落ち着いたところで、情報を整理してみることにした。    原因は、鹿敷が引き受けた仕事。鹿敷は、何故、皆が断ったのに、引き受けてしまったのか。  一人娘が、二十代で病死した。悲しんだ両親は、その遺体を居間ごと冷蔵とし、一緒に生活しようとした。
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