『恋という死に至る病』

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 男が首を振って、苦しそうに山に駆け込んでいた。 「追わないで遊部さん。居場所は分かるから」  百舌鳥が異物(インプラント)の中身を調べ、これが殺人事件だと判明した。  少女は、殺された記憶を持っていた。 「あ、又、異物(インプラント)」  僅かに男を追いかけた、細い道に金属片が落ちていた。俺が、拾った金属片をポケットに入れようとした瞬間、昴が追いついて俺の手を握った。 「追いかけないでください、遊部さん!」  昴は通過者であった。昴に吸収される前に、金属片は奪い取り、ハンカチに包んでポケットに入れた。俺のハンカチは、最近、大量消費されている。異物(インプラント)を包んだハンカチは、そのまま返ってこない。 「異物(インプラント)ですか……」  昴は倒れかけて、しゃがみこんだ。 「大丈夫?」 「はい、平気です」  昴は、意識も保っているので、大丈夫であろう。異物(インプラント)に取り込まれてはいない。 「見ましたよ」  昴は、異物(インプラント)にあった、蝿葬をしていた少女の記憶を見ていた。  女の子は一人で寂しく、友達を探した。男は、自分が連れ込んでいた少女に驚き、殺してしまった。  女の子は、口減らしで山に捨てられた少女で、かなり昔の記憶を持っていた。村に帰れずに、死ぬまで洞窟で過ごす老婆達がいた。その白骨の中に、新しい白骨も入れてゆく。  寂しいので、犬や猫も連れてゆく。しかし、全て白骨であった。  かつて、この少女の異物(インプラント)を取り込んだのは、釣り客であった。釣り客は、保養所に帰り、そこで足を滑らせて頭を打ち異物(インプラント)を落とした。次に落ちていた異物(インプラント)を拾ってしまった者が、今の男で、保養所の職員であった。 「……駐在所に行きましょう。殺しの証拠はありませんが、遊部さんを岩で殴ろうとした映像はあります」  駐在所に行くと、渓流に危険な人物がいたとの報告に留めた。職務質問のようなものをされたが、生葬社に連絡を取られてしまうと、警官は俺達に異常に優しくなった。 「何だ、同じ警官でしたか」  俺は警官などではない。留守番をしていたのが、女性だったということで、怒っているだろう女性達の顔が浮かんだ。 「……もしかして、かなり怒っていましたか?」 「はい。早く戻って来いと、怒鳴っていましたよ。女性警官の方です」  俺がため息をつくと、同情されてしまった。
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