『恋という死に至る病』

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 しかし、腐敗は止められず、娘を醜い姿にできないと、やっと火葬する覚悟ができたという。でも、結婚せずに亡くなってしまった娘が不憫で、仮想で結婚式後に、葬儀を行いたいとの申し出があった。 「一晩、白無垢姿の娘に添い寝してやってください。若い男性がいいです。独身でお願いします」  ここが、葬儀社が断った理由であった。  俺も添い寝はしないと、百舌鳥に言ってある。百舌鳥は、添い寝は鹿敷にさせるから大丈夫と言っていた。  仮想の結婚式以外は、問題は無かった。鹿敷は、どこからも断られたという、娘の両親に自分の親を重ねて見ていた。  鹿敷は何度も死に、他人の体で人生を繋いできた。鹿敷は、死ぬ度に、両親の悲しみを見ていた。  鹿敷は、悲しみを乗り越えるには、別れの儀式と、区切りというのか一線が必要と言っていた。この悲しみに暮れる娘の両親に、鹿敷は別れの大切さを伝えたかったのかもしれない。  俺、遊部 弥吉(あそぶ やきち)は、言葉から世界を想像する。  小さな集落、山の中。若い娘は、そこでの希望であった。その希望が失われ、集落自体が泣いている。だから、悲しみ以外のものを、拒絶しているのか。 「……昂、車の免許は持っていたよね?運転してみるか」 「ええ?」  昂は、悲しみを持っている。俺は、昂が毎日リハビリしていることを知っている。昂が、大学に復学したくても、体調がすぐれなくて諦めていることも知っている。  昂の母親は若いまま亡くなっていて、再婚である丼池の母を慕いつつも、実の母親の面影を女性に求めている。昂の歴代の彼女の写真を見ると、母性を求めていた。  昂は、新しい家族も大切で、母の死を悲しめない自分を責めている。  多分、親とうまくいかない俺とは違い、昂は家族の悲しみを理解している。 「まあ、コーヒー飲んでからね」  コーヒーを飲み終えて、昂が運転を始めると、暫くして前方に灯りが見えてきた。  何の灯りかと見ていると、街灯であった。街灯までゆくと、カーナビが目的地への案内を開始していた。  幾つかの民家があり、どこの家からも窓の灯りが見えていた。その中で、提灯を下げた門の付近が、目的地になっていた。  やや離れた空き地に車を止めると、提灯の家へと歩みよってみた。 「山岸家。ここで合っているよね」
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