『恋という死に至る病』

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 振り返ると、皆、事務室に戻ってしまっていて誰だったのかは分からなかった。  生葬社を出て、どうして丼池の両親が心配しているのか、気になった。彼らは旅行中ではないのか。  家に戻ると、丼池の車が駐車場にあった。 「……ただいま戻りました……」  美奈代が走って来て、俺を抱き締めた。 「やっぱり置いて旅行には行けない。今度は一緒に行きましょう!」  何がどうなったのだ。昴が、そっと横をすり抜けて、リビングで寝転んだ。 「お土産です」  土産は丼池が受け取り、俺は美奈代に抱えられるように、連行されて、部屋に入れられてしまった。  犬だって庭を自由に走っているのに、俺のこの扱いは何であろう。  丼池が麦茶を手に、部屋に入ってきた。 「昂の映像を親が見てしまってね。もう、大変よ。遊部さんが全く気がついていないのに、映像では後ろに岩を振り下ろそうとする、男がいるしさ」  その映像を見てしまったのか。 「昂は必死で知らせようとしているけど、全然、前に進んでいないし。美奈代さんは泣くし」  それは悪い事をしてしまった。  丼池は、俺のベッドに腰を下ろす。 「遊部さん、無事だと実感させて。キス、させて」 「隣にご両親がいるぞ?」  窓超しに、饅頭を食べる親がいるのに、キスなどできるか。  でも、丼池の横に座ってしまった。座れば、キスしてしまうのは、分かっているのに、俺も生きていると丼池に伝えたい。  じっとりと唇が重なると、当然のようで、電話が鳴った。どうせ、綾瀬からのメールなのだ、無視してもいい。すると、ノックが聞こえた。 「昂?」  ドアを開いて、昴が入ってくる。 「綾瀬さんが、キス以上は絶対に許さないってさ」  綾瀬が、あまりにしつこいので、昴も根負けしたらしい。 「綾瀬さんは俺にも連絡をしてくる。今回も、昴の映像を見ろと言ってきた。すると、男が映っていて驚いた」  綾瀬は、どこで情報を知っているのだ。そもそも、死んでいるのに、どうやって通信しているのだ。 「人は死ねば、体は土に還り、心は天に帰る。だから遺伝子は二重になり、それは、歌うように寄り添う」  意味が分からないが、綾瀬のメールを昴が見せてくれた。 「綾瀬さん曰く、心は一人では帰れずに、重なる心を待っているそうです」  要は死にきれずに彷徨っているのか。 「なあ、丼池君。どうして、捨てられている異物(インプラント)を回収屋は拾わないの?」
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