『恋という死に至る病』

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 あちこちに、落ちている異物(インプラント)が多すぎる。 「それは、成己ではなく、俺に聞いてください。元回収屋ですから」  昴が、紙を出すと書いて説明してくれた。  回収屋は価値のない異物(インプラント)を扱わない。  動物のもの。かなり昔に亡くなった者。欠けている者。今回は、かなり昔に亡くなった者が多く、回収屋の興味を引いていなかった。 「生葬社は、そういうのでも扱ってもいいのかな?」 「生葬社も、基本は影響度の高い順です。でも、あれば拾いますよ」  事務室の彼女達も怒ってはいるが、今回の姥捨て山の記憶など、泣いて処理していたという。こんなに辛い事実が、そのまま放置では悲しいのだそうだ。 「……いい人たちなのですね」 「……怖いけどね」  そうなのか、俺も彼女達の一面を知った気がする。 「明日は、何をしようか?両親は旅行を切り上げてしまったし。母さんは、明日は、家族で食事に行こうとかプランを練っていたよ」  だから、俺は家族ではない。 「明日は、車を洗車して、靴を買いに行く」  社用車を汚したままにしておけないし、靴はボロボロになってしまっていた。貧乏生活で、なかなか購入できなかったのだ。 「俺も一緒だね」  昴が、俺の予定に時間を加味していた。 「その後、ディナーに行きます」  美奈代がドアを開けて、言い放つ。  誰も反論できない。 「予約はもう済ませています。郊外のいいお店です。ゆっくりと、話し合いましょう」  何を話し合うのだ。とても怖い。 「では、おやすみなさい」 「はい!」   三人で、声を揃えて返事をしてしまった。 第七章 幾つもの夢が重なる夜  昴は、夢を共有する能力があると言っていた。ならば、これは昴の夢なのであろうか。  伊庭かおりが、定着できない理由が、そこには在った。 「赤ちゃん。私の赤ちゃん……」  夢の中で、伊庭が泣きながら探している。つい、居場所を言おうとすると、口を手で塞がれていた。 「お節介だけで、ここまで来るのか……困った子だ」  それは、儀場であった。 「あれが、定着できない理由ではないですか?放っておいていいのですか?」  儀場が俺を見る。困ったような、呆れた表情をした儀場は、何故か裸であった。慌てて自分を見ると、俺も裸であった。 「服!服……」  すると、いつもの服を着こんでいた。 「夢の中は、強く願えば叶う。それを持ち帰って人は生きる」
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