72人が本棚に入れています
本棚に追加
儀場もスーツを着込んできた。伊庭は、百舌鳥に出会い、百舌鳥は優しく伊庭に微笑んでいた。すると、場所は百舌鳥の家の居間らしき場所に移動して、二人はソファーで抱き締め合う。
「子供は三人。郊外に家を購入して、犬を飼おう」
伊庭は泣きながら頷いていた。子供の服は手作りで、庭で野菜を作る。手作りの品を売るショップを出して、野菜も売ろう。
これからの事を、夢見ている。
百舌鳥と伊庭は大丈夫だと、そんな気がしてきた。百舌鳥は伊庭に恋しているし、伊庭は夢を失わない。
「これも、有料のサービスですか?」
儀場の、支払いは身体か能力であろうか。
「まあ、そうだけど。百舌鳥もね、能力者だからね、能力で支払いでいいよ」
夢の中だが、一度、儀場と話し合わなくてはと思っていた。
「儀場さん、身体での支払いは譲れないものなのですか?」
どうも、それが嫌なのだ。
「そうだねえ。遊部君には、いつか、その意味が分かる日が来るよ。人生を変えるのに、リスクがないなんて思わない方がいい」
いや、俺は古い人間なのか、多くの人と肉体関係を持とうとは思えないだけだ。一人でもいいくらいであった。
「あ、鹿敷さん」
儀場の表情が曇った。鹿敷は、夢の中では、今までの体の記憶を全て持っていて、崩壊しそうであった。
姿がころころと変わり、一定に保つことができない。鹿敷は泣きながら、自分の姿を映す鏡を見つけようとしていた。
その唯一のものが、儀場であった。鹿敷は自分を映す、儀場の目だけが頼りであった。
夢の中の儀場は優しく、鹿敷だけを見つめていた。鹿敷は、中身も定着させたいと、必死で儀場を求めていた。
「体を要求しているのは、鹿敷さんなのですか……」
その点では、俺は儀場を誤解していたのかもしれない。
「……儀場、抱いていて。中から俺に楔を打って、お願い……」
鹿敷の表情が色っぽい。
「まあ、鹿敷があんなに正直に本音を言うことはありませんけどね」
困ったように笑う儀場の目に、親のようなやさしさが浮かぶ。こんな優しい目で、鹿敷は見つめられているのか。
他に、大学に行く昴。古民家を再生している丼池、しかし、その助手は俺であった。
「丼池君は、遊部君に本気ですよ。君も覚悟が必要ですね。一生の相棒という絆を結ぶようにね」
でも、丼池には自分の犠牲にしてしまった、先輩という人の溝がある。
最初のコメントを投稿しよう!