『恋という死に至る病』

43/69
前へ
/69ページ
次へ
 儀場もスーツを着込んできた。伊庭は、百舌鳥に出会い、百舌鳥は優しく伊庭に微笑んでいた。すると、場所は百舌鳥の家の居間らしき場所に移動して、二人はソファーで抱き締め合う。 「子供は三人。郊外に家を購入して、犬を飼おう」  伊庭は泣きながら頷いていた。子供の服は手作りで、庭で野菜を作る。手作りの品を売るショップを出して、野菜も売ろう。  これからの事を、夢見ている。  百舌鳥と伊庭は大丈夫だと、そんな気がしてきた。百舌鳥は伊庭に恋しているし、伊庭は夢を失わない。 「これも、有料のサービスですか?」  儀場の、支払いは身体か能力であろうか。 「まあ、そうだけど。百舌鳥もね、能力者だからね、能力で支払いでいいよ」  夢の中だが、一度、儀場と話し合わなくてはと思っていた。 「儀場さん、身体での支払いは譲れないものなのですか?」  どうも、それが嫌なのだ。 「そうだねえ。遊部君には、いつか、その意味が分かる日が来るよ。人生を変えるのに、リスクがないなんて思わない方がいい」  いや、俺は古い人間なのか、多くの人と肉体関係を持とうとは思えないだけだ。一人でもいいくらいであった。 「あ、鹿敷さん」  儀場の表情が曇った。鹿敷は、夢の中では、今までの体の記憶を全て持っていて、崩壊しそうであった。  姿がころころと変わり、一定に保つことができない。鹿敷は泣きながら、自分の姿を映す鏡を見つけようとしていた。  その唯一のものが、儀場であった。鹿敷は自分を映す、儀場の目だけが頼りであった。  夢の中の儀場は優しく、鹿敷だけを見つめていた。鹿敷は、中身も定着させたいと、必死で儀場を求めていた。 「体を要求しているのは、鹿敷さんなのですか……」  その点では、俺は儀場を誤解していたのかもしれない。 「……儀場、抱いていて。中から俺に楔を打って、お願い……」  鹿敷の表情が色っぽい。 「まあ、鹿敷があんなに正直に本音を言うことはありませんけどね」  困ったように笑う儀場の目に、親のようなやさしさが浮かぶ。こんな優しい目で、鹿敷は見つめられているのか。  他に、大学に行く昴。古民家を再生している丼池、しかし、その助手は俺であった。 「丼池君は、遊部君に本気ですよ。君も覚悟が必要ですね。一生の相棒という絆を結ぶようにね」  でも、丼池には自分の犠牲にしてしまった、先輩という人の溝がある。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加