『恋という死に至る病』

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 俺は、綾瀬と生きる事を選べるのか。心のどこかで、綾瀬はもう死んでいると知っている。もう、終わってしまった事なのだ。 「綾瀬、ごめん」  弟の実徳の言う通りで、綾瀬は、俺が死を認めていないから、幽霊になった。 「……謝らないで……俺を見て。俺だけを見ていて」 「俺、帰る」  夢から覚めよう。 「遊部、行かないで。ずっと、俺の傍に居て。いつも笑っていて。俺は、遊部を守り続ける。初めて会った時から、一生ものの恋だったから」  初めては、生後何ケ月の世界だ。何しろ、近所であったのだ。そんな時のことを、俺は微塵も覚えていない。  それから、俺は、自分の過去を見ていた。物心つくと、どう見ても日本人ではなくなっていて、あれこれ問題児になってしまっていた。綾瀬の親にも、祖父母にも毛嫌いされて、綾瀬にも近寄れなかった。  玄関にDNA検査の結果を額に入れて置いた。皆が聞くので、見えるところに置いたのだ。  ある日、知らない人が来て、俺の手を引いていった。俺は、すごく疲れていて、弟が産まれたから、もう俺はいらないのかと安心していた。車に乗せられて、知らない山に置いていかれた時に、やっとゆっくり眠っていいのかと、ほっとした。  もう一人でいいのだ。やっと、一人になったのだ。草藪の中で眠りについた。  でも、夢から覚めると、家にいた。  ある時、俺は海に来ていて、親戚は俺を無視していた。実徳のことを、可愛いねと言っては抱えていた。  知らない人が、無視されている俺を見て、一緒に船に乗ろうと言った。そして、船に乗ったが、沖の島に置いて帰られてしまった。誰も俺がいなくなっても困らない。この小さな島に、ずっといたい。でも、夜になって雨が降り、波は島を包んだ。俺は、逃げ場がないので、そのまましゃがんで夜を見ていた。波に飲まれると、息ができない。苦しいけど、これで終わるのは、嬉しかった。  でも、目が覚めると、家にいた。  その日、嵐で川が氾濫していた。学校は、危険と判断し、午前中で生徒を帰宅させた。でも、俺は家に帰りたくなかったので、氾濫する川を見ていた。  俺は、川上から来た濁流に飲まれて、下へと流された。寒くて、力が入らない。雨が降っていて、誰かが叫んで俺を見ていた。  そうか、生きている事を葬っていないのは、俺であるのか。俺が、もう死んでいるのか。 「俺は、死んでいるのか……」
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