『恋という死に至る病』

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 綾瀬をとやかく言える立場ではない。 「全部、助かっていますよ。助かった時の記憶がないだけです」  昴の声がしていた。  助かった記憶?すると、夢の中のせいか、映像で見えてきた。  山に捨てられていた俺を拾ったのは、老夫婦であった。弟が産まれたから、俺はもういらないのだと、説明すると泣いていた。チョコをくれたが、食べるとお腹が空くからいらないと言うと、号泣してくれた。そうか、俺の為に、泣く人がいたのか。  海で俺を助けたのは、漁師であった。島の木に、引っかかり流されていなかったのを、拾って病院に運んでくれた。腕の骨と、肋骨を折っていたが、俺は助かった。  その日の漁をやめてまで、漁師は俺を運んでくれた。その時、命は大切なのだと、言ってくれた事が、心に染みた。 「……儀場さんですね。こうまで都合よく、助かるわけがありません」 「そうだね。俺は、君を失う未来を知っていたよ。だから、少し、助けた」  では、最初の時に戻って、俺は眠ったまま起きないことにしよう。 「待った。君は……」  俺は、最初の山で死んだ。それで良かったのだ。そうすれば、誰も悲しまずに済んだ。  俺の死骸は、カラスが食べ、虫が食べた。やがて骨になってから、警察に発見され家に戻った。  死因は餓死。山に置き去りにした犯人は捕まらず、両親が、犯人だと疑われ続けた。母親は、犯人だと疑われることに耐えかねて、家を飛びだした。  俺がいなくても、幸せとはいかないらしい。やはり、事故死でなくてはならないのか。 「二度目にしよう」  一度目は助かり、二度目に死のう。島に置き去りにされ、悪天候で波に飲まれる。遺体は流され、早朝の浜に漂着した。犬が見つけ、飼い主が警察に電話した。  そこで大問題が発生、船の持ち主が有名人で、あちこちの週刊誌にスクープされる。俺の生い立ちも公開されてしまって、親戚で毛嫌いされ、探す事もされずに一人で死んだ子供のように書かれてしまった。  探すためには税金を使うのだから、見殺しではなく皆のためだと、叔父が自分達を正当化して、激しい論争になっていた。  俺の実家も、あることないこと書かれてしまい、周囲から孤立してしまった。 「これも、酷いね……」  では二度目も助かり、三度目で死のう。  しかし、そこにも問題が発生した。
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