『恋という死に至る病』

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 帰宅していない俺を心配した先生が、川を見回りしていて、俺が流されているのを見つけたのだ。そこで、先生は助けを呼んでから、自分も川に飛び込んだ。  俺は死んだが、先生も死んでしまった。これには、俺も泣けてしまった。 「だから、遊部君は死んではいけない。助かる度に、君は人を好きになった。そして、困っている人を見捨てられないという、今の君が形成された」  何の見返りもなく、儀場が動いたのだろうか? 「そういう顔をしない。俺には、君を助けなければいけない理由があった。君は、鹿敷を助ける」  鹿敷のために、儀場は俺を助けたのか。 「君を助ける度に、鹿敷が体で支払った」 「……、…………」  俺は、こんなに昔から生葬社に関わっていたのか。俺は、自分が生きているという、意味を考えなくてはいけない。  体育座りで考え込んでいると、隣に綾瀬が胡坐をかいて坐っていた。 「遊部、深く考えても、意味なんて難しいよ。それよりも、笑っていてよ」 「面白くもないのに、笑えないよ……」  笑えば面白くなるよ、そういえば、綾瀬はいつもそう言っていた。  山から生きて戻ってくると、綾瀬は毎日、俺の姿を探すようになった。海から戻ってくると、俺の怪我のほうがショックだったようで、綾瀬は、本や雑誌を家にそっと届けに来ていた。俺が怪我のまま外に出ないように、いつも綾瀬が見張っていた。  川で助かると、綾瀬は一緒に帰れば良かったと泣いて、手を離さなかった。  いつも綾瀬の方が、俺よりも俺のことで泣いてくれた。  でも、高校三年の春、綾瀬は一人で死んでしまった。 「笑っても面白くならないよ。……どうして、一人で死んでしまったんだよ。どうして、俺を残して死んだ?」  事故であったので、綾瀬にも、どうしようもなかっただろう。でも、俺は綾瀬を責めていた。 「ごめんな遊部。一人にしてごめん」  ハグしてくる綾瀬が温かい。 「でも、もう……絶対に離れない」  え、それはどういう意味なのだ。  目が覚めると自分のベッドで、今のは夢だったと分かった。理由は、俺に被さって眠っている、昴であろう。 「昂!」  どうして、昴がこんな場所で眠っているのだ。 「あ、遊部さんへの電話を繋ごうとここへ来て、睡魔に負けました」  誰からの電話であったのだ。昴が落とした携帯電話を見ると、実徳からであった。 「げ、今、電話だ」
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