『恋という死に至る病』

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 仕方なく実徳の電話にでると、実徳も夢を共有してしまっていたらしい。俺のプライベートはあるのだろうか。  実徳は、あれこれ起こした俺の事件を、詳しくは知らなかったらしい。 「兄さん、俺、夏休みにはそっちで、予備校の夏季講習を受けるつもりです!」  確かに田舎では、予備校さえも遠い。でも、俺は、丼池の家に住んでいる。それまでに、アパートに越さなくてはいけないか。 「……遊部さん、問題児でしたね。でも、かわいい!よく誘拐されませんでしたね」 「……夢で見ただろう、誘拐?されていただろう」  昴が俺の部屋から出てきたので、丼池が固まっていた。 「昂?」 「実徳君の電話を持っていっただけです。成己も、しっかり夢を見てね」  丼池の古民家の再生は、しっかりとした夢であった。 「遊部さん、母さんは、遊部さんは捕まえていないと、どこかに行ってしまうと言いました。その通りでした。今度は、家族で捕まえています」  俺に、そんな価値はないだろう。 「遊部さんは、自分の価値を知らない。俺を無償で助けに来た、兄の問題を必死で考えている。ああいう過去のせいだとしても、この家の光になったのは、貴方からですから」  昴は、にっこりと笑うと、手摺りを頼りに自分の部屋に歩いて行った。 「かなり、歩けるようになったね。あとは、離れていられる、時間か」  三十分では短い。 「朝食にしましょう」  丼池がリビングに歩いてゆく。丼池の夢に俺がいたことは、嬉しいような、少しショックのような気持であった。  でも、嫌ではない。  生葬社に出社すると、百舌鳥は休みになっていた。事務室で、女性達に聞くと、伊庭かおりの具合が悪いらしい。 「長く二重の異物(インプラント)でいるとね、正常になっても、心が欠けたような感じなのよ」  そこで、彼女達はカウンセリングを勧めていた。  名前も教えてくれない彼女達であるが、プロの仕事をしていた。俺が持ち込んでしまう、異物(インプラント)は報告書付で、提出されている。  回収屋さえも扱わない古い品でも、責任を持って最後まで処理してくれていた。 「でもね、遊部君。遅かったくらいなのよ。もっと早くに、異物(インプラント)を分離しなくてはいけなかった。君のせいで、こうなったわけではないからね」   慰められているのだろうか。 「私は、洋菓子派ね」  土産を要求されているのだろうか。
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