『恋という死に至る病』

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 尻もちをつきながら、俺は出て来た昂を見上げた。 「どうしました、遊部さん」 「パンツ、落ちているよ」  昂の足元に、女性のものと思われる、可愛いフリルの塊が落ちていた。給湯室で、一体何をしていたのだ。 「本当だ……」  昂は、パンツを拾うと、生ごみに捨ててしまった。 「それ、生ごみ?」  先ほどの娘は、今はパンツを履いていないのか。想像してしまって、照れてしまった。 「ごめん、邪魔して。でも、ここ職場だからね」  神聖な職場であるのだ。生殖の場ではない。 「すいません。遊部さんが居ないと起きていられないですから、ラブホについて来てとは、言えないですし、焦ってしまって」  身支度を整えながら、昂が項垂れている。 「焦ることはないよ。離れても、一時間近くは平気になったでしょう。だんだん、長くなっている」 「いや、長く使っていないから、使えるのかな?と心配になって……すると、かなり焦ってしまいまして」  これ以上、突っ込んで聞きたくない。 「儀場さんと、伊庭さんの家に行ってくる」 「俺も行きます!」  儀場の車に乗り込むと、あまりに高級車で緊張してしまった。  儀場は、何で金を得ているのか、全く素性が知れない。持ち物も一流品で、姿も一流品であった。 「そんなに緊張しないでね」  しかし、俺といるところを見られて、誤解されたくないのか、鹿敷へ電話で連絡していた。鹿敷は男であるのだが、儀場は愛妻家なのかもしれない。 「鹿敷さんは無事でしたか?」 「さっさと仕事をしろと、怒られたよ」  全くその通りなのだが、少し照れる儀場は、案外可愛い。 「それと昂君。君の定着は、肉体関係ではなくてね、精神面の繋がりが左右するよ。焦らないで、周囲と仲良くね」  儀場は、給湯室のことも、気が付いていたらしい。しかし、給湯室であんなことをされると、お茶が不味くなる。  車は走り出しても静かであった。生葬社から借りている車が、レトロな程の旧型であったので、エンジンの音が凄く、この静かさに感動する。  加速も重力を感じさせない、滑らかなものであった。なのに、瞬間で高速になっている。 「百舌鳥の趣味が車だからね。この車は、百舌鳥の趣味で選んだものね。俺は、車は走ればいい」  俺が、じっと車を見ているので、儀場はあれこれ機能を説明してくれた。 「あ、ここが百舌鳥の住んでいる家」
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