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本当に、回収屋の黒煙が現れるとは思っていなかった。黒煙は、煙になって消える能力がある回収屋であった。回収の能力はないので、相手を怖がらせて異物(インプラント)を落とさせる。
「儀場」
やはり、回収屋と儀場は仲が悪いらしい。儀場と黒煙が、互いに睨み合っていた。
「なあ、黒煙。どんな異物(インプラント)ならば、価値があるの?」
異物(インプラント)の価値を、暴落させた張本人だが、知ってはおきたい。
「……普通のものは売れません。完全ならば、買い取ってはくれますが、以前のような金にはなりません」
「心中モノ。悲恋モノ。駆け落ち、不倫あたりは売れるよ」
矛先を逸らしておこう。
「そんな、嘘を信じない」
「では、問い合わせてみなよ」
俺は、大量の異物(インプラント)を回収してしまったので、欲しいものも想像できる。
黒煙は、どこかに電話をかけ、かなり驚いていた。
「本当に高値でしたよ。ありがとさん、俺のベイビーちゃん」
黒煙は、空間に消えていった。
でも、これだけでは、安心できない。伊庭は戻って来ないのか、庭のキュウリを齧っていると、その正面に伊庭の顔だけがあった。
「うわああああ」
顔だけが、キュウリと俺を見比べる。
「洗って食べてね、無農薬だから、虫が多いの」
「トマトも食べたい」
伊庭は、暫し考えてから、自分の手を探していた。顔の付け根から手が出てくると、庭の隅を指差した。
「あちらに、あるよ」
首と右手だけで、移動していた。これで、傘があったら、傘お化けのようであった。かなり、怖い。
「そこの井戸水で洗ってね」
トマトを持とうとして、片手であることに気がつき、もう片方の手が出てきた。
「トマト、おいしいですが、ちょっと野菜っぽい匂いがします」
そこで、トマトの匂いついて、あれこれ土やトマトを見ながら語らってしまった。本来のトマトは、フルーツのような匂いがする。
「百舌鳥君は、トマトが嫌いなのよ。ハンバーガーもトマトを取って食べるの」
「俺も冷凍トマトは大嫌いです」
首から手が生えた生命体であったが、だんだん慣れてきた。
「ピーマンの生サラダって知っています?おいしいですよ」
庭のピーマンまで戻る。
「生ね。それもいいですね。ピーマンはね、百舌鳥君が大嫌いで、いつも残すの」
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