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「俺、実家が農家なのですけど、家庭の事情で家は弟に継いで貰います。親って、自分が産んだ子供でも、同等にはならないものですよね」
伊庭の前で、子供の話はタブーになっていたが、あえて、世間話をしてみた。
「人は、一人一人違うでしょ。親は子供が同じように大切だけど、やっぱり、一人一人が大切だから、扱いが違ってもいいのではないの?特別嫌いであったとしても、きっと、切れない何かはあるのでしょう」
切れないから、苦痛なのだ。
でも、伊庭は親の目線で見ていた。決して自分に置き換えて話しているのではない。やはり、伊庭の心には、子供が生きて存在しているのだ。それは、次の子供を作ればいいという問題でもない。
一人一人違う、自分の産んだ子供が気になっているのだ。
「伊庭さんが抱えているのは、大問題です」
百舌鳥が慌てて、俺の口を塞ぐ。
「いいのよ百舌鳥君。この子の言う通りなの、私には記憶が戻っているのよ」
伊庭は、涙を流していた。
「子供が二人。私は別人として生きている時に産んだ。一人は百舌鳥君の子供なの。私、とんでもないことをしました。その子供を置いてきてしまった」
伊庭は、記憶を整理し始めていた。
「向こうの旦那さんが、新しい奥さんを貰いました。いい女性で、子供も大切にされています」
だからどうした?という問題なのだが、子供も必死に生きている。
「そうなの?もう、私には夢の中であったことのように、ぼんやりとしているの。でも、毎日、忙しくて、子供が賑やかで幸せだった」
でも、伊庭は安定せずに、時々不安定となっていた。そのどうしょうもない不安感は、彼女を伊庭かおりに戻した。
「百舌鳥さんと子供を育てて、車好きか野菜好きかの決着をつけてください」
伊庭が、泣きながら笑った。
「両方好きなら、もっといいのよ」
しっかりと、伊庭が俺の目を見ている。多分、この現実を見ているのだろう。
「百舌鳥さん、護衛、頑張ってください」
これならば、俺も生葬社に帰れる。
「よし、帰ろう」
結局、儀場の車で一緒に帰ることにした。もう、伊庭は大丈夫という気がする。
「遊部君、見直したよ。君は、もっと役立たずかと思っていたよ」
儀場が、車を運転していた。本音だと思うが、酷い言われようであった。
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