『恋という死に至る病』

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「百舌鳥の能力は、嘘を見抜くでね。いつも、幸せと言う伊庭かおりさんの嘘を見抜いていたよ。でも、今度は、伊庭かおりさんの本音がきこえた」  それならば、良かった。 「飯でも奢ろうかな……」  儀場が、ステーキレストランの駐車場に車を止め、ふと、着信のあった携帯電話を手に取った。 「鹿敷?」  でも、掛け直しても鹿敷に電話は繋がらなかった。  何か、まずい感覚がある。俺は急いで、鹿敷と一緒に喫茶店鮫島に来ていた田中に、電話を掛けてみた。  すると、鹿敷は仕事に行ったきり、帰社予定時間を過ぎても戻って来ないという。帰社時間が過ぎるのは、よくあることで、誰も心配はしていないが、田中は何かを察していた。 「会社の周囲に、変な人が多いのです」  寺社巡りの人でも、葬儀の人でもない。ましてや、会社員でもなさそうな人が多くうろついていたという。 「ありがとう、田中さん」  電話を切ると、儀場を見た。儀場は、何か考え込んでいた。 「昂。鹿敷さんの携帯電話の場所を特定してみて」 「はい」  鹿敷の電話にコールしてみる、鹿敷が電話を取らなくても場所は特定できる。何度か掛けてみて、場所が移動していないことから、携帯電話が捨てられている可能性が高いと推測する。  携帯電話が鳴っていて、相手が放置しておくとは考えられないからだ。  鹿敷の行った場所、帰社ルート、携帯電話の捨てられた位置、どこも人通りが多かった。ならば、鹿敷は携帯電話を自分から捨てたのだ。 「昂、鹿敷さんの携帯電話を拾ってくる」  特定された場所に行ってみよう。  儀場が、近くの路上まで載せて来てくれた。そこから歩き、鹿敷の携帯電話を探してみる。  そこは、駅前のビル前広場であった。真ん中に噴水があり、待ち合わせの人が多く行き交う。  広場の周囲には木が植えられていた。隠したのはどこであろうか。鹿敷は、あれでも、仕事では切れる人物であった。葬儀は、現場で判断しなければならない事も多く、咄嗟での対応も求められる。現場で判断し、指示を出す人間は頼られる。鹿敷は、ちゃらんぽらんそうに見えて、周囲から、かなりの信頼を寄せられていた。  その鹿敷が隠すのならば、隠さないだろうと敬遠される場所だ。  俺は噴水の中を覗きながら、一周、回ってみた。 「こんなに、深い場所でなくてもいいのに」
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