『恋という死に至る病』

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 ズボンの裾をまくり、靴と靴下を脱ぎ、噴水に入ると、携帯電話を拾った。この光景に、行き交う人が笑っていた。  目立つ、だから、拾えない。夜を待って拾おうとするので、日中に動ける俺の方が有利だ。  携帯を拾うと、防水になっていた。これにヒントがあるのだろうか。  携帯電話には、絆創膏のような滑り止めがあり、そこに指が引っ掛かった。 「げ、異物(インプラント)を外したの!」  鹿敷のものと思われる、異物(インプラント)が携帯電話に貼り付けられていた。 「では、今の中身は何?」  鹿敷の身体に、何が入っているのだろうか。  儀場は、近くでタオルを購入してくると、水際で待っていてくれた。近寄ると、そっと足を拭いてくれる。 「自分で拭きます」  噴水から出ると、儀場に鹿敷の異物(インプラント)を見せた。 「これは、仮の異物(インプラント)だよ。ダミーのようなもの」  鹿敷の本当の異物(インプラント)は、儀場の夢であるので、確かにダミーかもしれない。でも、これも記憶であった。 「でも、ここには犯人が書き込まれている」  昂が、異物(インプラント)に触れようとするので、俺は急いでポケットに入れた。 「遊部さん!鹿敷さんは危険ですよ。そもそも、何故、鹿敷さんなのか考えてみてください。それに大人の誘拐は、ほぼ殺されます」  どうして、鹿敷が誘拐されるのか。それは、儀場を脅すためであろう。何故、儀場を脅すのか、俺が、異物(インプラント)の価値を暴落させたからだ。生葬社が無償(公務員)であることが、回収屋にとっては邪魔であるのだ。 「俺のせいならば、俺を殺せばいいのに」  儀場や、鹿敷を巻き込むことはない。 「……できないのでしょう。遊部さんは、何度も死んでも、儀場さんが生きている事へ変えてしまいます。だから、儀場さんを脅して、蘇らないようにしてから、遊部さんを殺さなくてはいけません」  昂が正直に言ってしまい、儀場は舌打ちしていた。 「分かった。儀場さん、俺の死を認めてください。さよなら、昂」  靴を履くと、急いで近くの神社裏の森に行く。噴水で目立っていたせいか、幾人かの気配が近寄っていた。恐らく、回収屋であろう。  では、好都合であった。俺が、死んだと分かれば、それ以上は何もしない可能背が高い。  ここで首を吊ってみるかと、木を物色していると、背後から誰かが首を絞めてくれた。
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