『恋という死に至る病』

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 生葬社は、そのような人々に、生きていたことを葬り死とするという精神のもと、記憶を回収している。  枕元に綾里の異物(インプラント)があるということは、綾里は死んでいるのだ。丁寧に異物(インプラント)をハンカチで包んでポケットに入れる。  では、この綾里の中身は何であろうか?ふと、枕元に蜘蛛の死骸を見つけた。 「蜘蛛か……」  蜘蛛の殺虫剤などあっただろうか。とりあえず、蜂用の殺虫剤が置いてあったので、飛んできた虫に慌てて掛けたように噴射してみた。 「んんんん」  綾里が、天井から落ちて動かなくなった。いや、最初から動かなかったので、落ちてきて、普通の死体になった。  異物(インプラント)は、死に直面すると、落ちやすくなる。綾里の横に、元は蜘蛛だったろう、金属片が落ちていた。 「こちらも、回収」  今度は、ハンカチが無かったので、ティッシュに包むとポケットに入れた。 「さてと、運ぼう」  本当は、葬儀社がきちんと着替えさせ、棺桶に入れて運びたいのだが、俺達にはそんな芸当はできない。 「……」  これは、普通に助手席に乗せて運ぶのだろうか。やり方が分からず、鹿敷に電話を掛けてみた。 「鹿敷さん、遊部です。依頼者の自宅に到着しましたが、ご遺体をどうやって運ぶのでしょうか?」 「あら、到着したのか……では、そのまま、一晩添い寝していて……。俺達は、君の居場所を頼りに、明日、早朝に行くからさ……」  一晩、添い寝?それは、お断りした筈だった。 「は……、あ、遊部君。無事到着して、良かった……」  しかも、鹿敷の口調の妙な間が気になる。まるで吐息のような間。これは、もしかして、電話の向こうはお楽しみの真っ最中なのではないのか。俺に、仕事を頼んでおきながら、自分は楽しんでいるとは、何事であろうか。 「鹿敷さん、近くに儀場さんが居るのですか?」 「近くではないよ……俺の中にいるよ……」  俺は、思わず電話を切ってしまった。  セクハラなのではないのだろうか。職場で色気を出されると、笑いを通り越して、不快になりかねない。 「どうしました?遊部さん?」  心配する昂は、どこから頂いたのか、天婦羅を食べていた。 「いや、鹿敷さんは、儀場さんと一緒だったよ」  それ以上は説明したくもない。 「ま、同棲していますからね。儀場さんの、鹿敷さんへの執着は有名ですからね。愛妻家?ですかね」
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