『恋という死に至る病』

61/69
前へ
/69ページ
次へ
 回収屋というのは、人を殺すのか。鹿敷を殺したと言ったが、鹿敷は体を乗り換える。その鹿敷の死体は、もう鹿敷ではないのだろう。 「鹿敷は、海に捨てたのか?」 「石を括り付けて、ビニールに詰め込んで、海に沈めた」  ここは、任侠の世界なのだろうか。でも、どうして俺は、海に捨てなかったのだろう。俺と、鹿敷の違いは分からない。  そうか、俺は、駅の近くで殺されて、運搬に困ったのか。すると、この穴は、仮の捨て場であったか。もしかすると、改めて来て海に沈める予定だったのかもしれない。  駅の周辺を思い出してみる、神社の後ろに立ち入り禁止の区画があった気がする。ここは、まだ駅の周辺なのか。では、携帯電話が使用できるかもしれない。ポケットに、携帯電話が入っていた。これは、俺のものではなく、生葬社が貸し出ししたものだ。  充電がなくなり、画面が消えていた。再度稼働してみると、一瞬、画面が出たがバッテリーがありませんと表示され、再び消えた。 「ここから、変な音がする」  携帯電話の音で、気付かれてしまった。ライトが、穴の中を照らす。奥に移動していたが、一人が入って来ようとしていた。 「遊部さん!」  丼池が呼ぶ声がする。 「遊部さん!」   争っているような音がしていた。回収屋は複数人であった、丼池は大丈夫であろうか。俺は、加勢しなくてはいけないと、今いる穴の外に出ようとした。  状況を確認してから、出た方がいいだろう。俺が穴から顔を出し様子を伺うと、誰もいない。 「遊部さん!」  今度は昂の声で、走るように近寄ってきていた。 「逃げられました……」  横から丼池が出てくると、俺に抱きつき、そのまま穴から出されていた。 「……一人で死ぬなんて言わないでください。どれだけ、泣いたと思いますか……」  丼池が、俺をきつく抱きしめ泣いていた。 「儀場さんが、遊部さんと約束したから死んだままにしたいと言うので、殴りそうになりました」  その後、回収が終了となり、その理由が俺であったという。生きて体験させるために、新しい異物(インプラント)を送り込んだ。その異物(インプラント)の死をもって、回収業務を終了するとの連絡があったのだ。  そのタイミングでゆくと、死んだのは俺であった。 「良かった……生きて会えた……」  俺も、生きて会えて良かった。 「もしかして、昂もいるよね?」 「はい」
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加