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儀場は、少し笑うと、鹿敷の話を教えてくれた。鹿敷は、度重なる死の記憶で、心が病んでしまっていた。仕事をしている時は大丈夫だが、眠っている時は常に悪夢を見ている。
「いつも、鹿敷に対して、これで死んで欲しいと願うが、俺は、その反面、鹿敷を失っては生きていけない。願うのは、同時に永遠の眠りにつくこと」
その願いは叶えられた。儀場の夢で、二人は消えない領域にいる。
少しだけ、この平和が愛しいと思う。いつかは終わるとしても、もう少しだけ、この夢に浸かっていたい。
第十章 恋という死に至る病3
丼池に連れられて家に戻ると、本当に丼池の母親、美奈代は寝込んでいた。
「おかゆを作ろうか?」
ふらふらと出てきた美奈代は、俺を抱き込んで号泣していた。
「ごめんなさい」
こんなに号泣されると、言葉よりも心に刺さる。俺は、何て軽はずみな行動をしてしまったのか。
「どこにも行かないで、お願い……もう、貴方も私の息子なの」
美奈代の心は、俺の心を温める。
「遊部さん、風呂が出来ました。とりあえず、温まってね」
昂が、俺の着替えを持ってきていた。
風呂場で服を脱ぎ、鏡の前に立ってみると、首に絞められた手の跡がくっきりと残っていた。紫色に変色し、襟でも隠すことは無かった。
これでは、美奈代が号泣する。
風呂は温かく、固まっていた手足も動くようになってきた。
頭もすっきりしてきた。
俺は、今後、回収屋に殺されるということはないであろう。でも、異物(インプラント)の回収は程ほどにしよう。それで、生計を立てている人がいるのだ、生葬社は依頼を解決すればいい。
丼池家の風呂は広く、窓を開けると露天のようにもなっていた。
窓を開き庭を見ると、犬の散歩から帰ってきた丼池と目が合った。丼池が、真っ赤になって犬を見る。そうか、俺は裸か。窓を締めると、今度は外からノックされていた。
「愛しています、遊部さん」
窓の外の声に、俺は開こうとしていた窓を更に締めてしまった。
「探しましょう、鹿敷さんを……俺は、遊部さんと出会って、儀場さんの鹿敷さんへの思いの深さを知りました」
そこで俺は、窓を勢いよく開けると、窓から丼池の首にしがみつく。
「……鹿敷さんは、殺されている。俺は、その魂を探してくる」
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