『恋という死に至る病』

63/69
前へ
/69ページ
次へ
 儀場は、少し笑うと、鹿敷の話を教えてくれた。鹿敷は、度重なる死の記憶で、心が病んでしまっていた。仕事をしている時は大丈夫だが、眠っている時は常に悪夢を見ている。 「いつも、鹿敷に対して、これで死んで欲しいと願うが、俺は、その反面、鹿敷を失っては生きていけない。願うのは、同時に永遠の眠りにつくこと」  その願いは叶えられた。儀場の夢で、二人は消えない領域にいる。  少しだけ、この平和が愛しいと思う。いつかは終わるとしても、もう少しだけ、この夢に浸かっていたい。 第十章 恋という死に至る病3  丼池に連れられて家に戻ると、本当に丼池の母親、美奈代は寝込んでいた。 「おかゆを作ろうか?」  ふらふらと出てきた美奈代は、俺を抱き込んで号泣していた。 「ごめんなさい」  こんなに号泣されると、言葉よりも心に刺さる。俺は、何て軽はずみな行動をしてしまったのか。 「どこにも行かないで、お願い……もう、貴方も私の息子なの」  美奈代の心は、俺の心を温める。 「遊部さん、風呂が出来ました。とりあえず、温まってね」  昂が、俺の着替えを持ってきていた。  風呂場で服を脱ぎ、鏡の前に立ってみると、首に絞められた手の跡がくっきりと残っていた。紫色に変色し、襟でも隠すことは無かった。  これでは、美奈代が号泣する。  風呂は温かく、固まっていた手足も動くようになってきた。  頭もすっきりしてきた。  俺は、今後、回収屋に殺されるということはないであろう。でも、異物(インプラント)の回収は程ほどにしよう。それで、生計を立てている人がいるのだ、生葬社は依頼を解決すればいい。  丼池家の風呂は広く、窓を開けると露天のようにもなっていた。  窓を開き庭を見ると、犬の散歩から帰ってきた丼池と目が合った。丼池が、真っ赤になって犬を見る。そうか、俺は裸か。窓を締めると、今度は外からノックされていた。 「愛しています、遊部さん」  窓の外の声に、俺は開こうとしていた窓を更に締めてしまった。 「探しましょう、鹿敷さんを……俺は、遊部さんと出会って、儀場さんの鹿敷さんへの思いの深さを知りました」  そこで俺は、窓を勢いよく開けると、窓から丼池の首にしがみつく。 「……鹿敷さんは、殺されている。俺は、その魂を探してくる」
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加