『恋という死に至る病』

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 恋に理由なんてない。時間も関係ない。儀場が長い時間をかけて鹿敷を守っているように、永遠を求めることもあるが、一瞬でもあった。  丼池の唇が重なる。もっと触れ合いたいが、すごく怖い。恋は、反することだらけだ。 「……遊部さん、今は、身体を休めてください」  分かっている。でも、眠るのが怖い。 「丼池君、隣で眠っていて、ください。とても怖い。本当は、俺、死んでいるのではないでしょうか」  首の痣は、俺が殺された証拠であった。 「そうですね。昂も来ますよきっと。二人きりにはなれませんが、隣で守ります」  丼池が隣にいるのならば、殺されるのも怖くない。  俺は、丼池の恋心に甘えている。でも、心が触れ合う愛しさを、俺も知ってしまった。 「風呂から出る……」  風呂から出ると、美奈代が待ち構えていた。俺が美奈代に作ろうとしていた、おかゆを美奈代が作っていたのだ。 「熱いから、ゆっくり食べてね」  テーブルの正面で見ていられると、食べにくい。 「本当に綺麗な子ね。でも、毎回怪我ばっかりしていて、困った子」  俺は、もう子供ではない。でも、美奈代に反論する気もしない。 「成己と初体験したら教えてね。赤飯を炊いてあげるね」  どこの息子が、初体験を親に言うのだろうか。それに、何故、赤飯なのだ。 「成己の好きになった人が、貴方で良かった。だから、どこにも行ったりしないで。ここで、家族で居て欲しい」  美奈代の言葉が、すごく嬉しい。 「ありがとうございます」  きっと、この言葉を感謝するために、俺の今までの人生はあったのだ。  俺はおかゆを食べると、部屋のパソコンを開いた。  鹿敷は誘拐された。すぐに殺されていたかと思う。大人の誘拐は難しい。  船で沖に出る、死体を沈める。やり慣れている気がしていた。 「回収屋で、船を所有している者のリストです。その内、ここ一週間で出航しているのは、二隻です」  昂が部屋に入ってきていた。船は主に回収屋と漁師をやっている者の所有であった。天候が悪く、漁師は出航していなかった。  出航した二隻のうち、一隻は修理のための移動であったという。ならば、残る一隻であった。 「GPSのデータとかは、残っていないの?」 「……航路は分かりますが、どこで捨てたのかは分かりません」  海で航路が分かったとしても、それは、校庭で蟻の歩いた道を探すようなものであった。
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