72人が本棚に入れています
本棚に追加
昂は、あっさりとしていた。でも、愛妻ではないだろう。
昂は、手に持った天婦羅を食べると、再びどこかに歩いていた。そして、皿に盛られた天婦羅を持ってやってきた。
「頂きました。どこかに座って食べましょう」
縁側に座って天婦羅を食べていると、酒も進められたが、丁重にお断りした。車を運転するかもしれないので、酒は飲めない。
「明日、葬儀社がこちらに参ります。この近くで、宿泊できる場所はありますか?」
俺は、この家の主人に声を掛けてみた。奥で、テレビを見ていて、妙に安心した。ここにも、ちゃんと文明がある。
「添い寝?でしょう」
「でも、二人おりますし。添い寝は、川の字でしょうか」
それでは、親子のような感じもする。
「そうですね……」
主がやや考え込んでいた。俺は、ついつい、後ろのテレビを目で追ってしまった。
大型の画面に映っているのは、ニュースであった。高速道路で事故があったと、大きく報道していた。場所を見ると、案外、ここから近い。
高速で急ブレーキをかけたトラックが横転、そこに後続車が突っ込んでいった。道幅一杯に横転したトラック、しかも回転したらしく、木もなぎ倒されていた。十数台を巻き込んでの大事故であった。
「もう一組、布団を用意いたしますよ。泊まってください」
それにと、主人はテレビを指差した。
「高速は閉鎖されていますよ。帰れませんよ」
高速から降りて、かなり走ったと思うが、確かに高速が使えないのは不便であった。
「風呂も用意しています。浴衣で良ければ、私のを着てください」
それは、ありがたいような迷惑のような感じであった。
古い民家であったが、あちこち改良していた。居間にはソファーがあるし、風呂は薪ではない。
廊下を歩くとギシギシと音を立てるが、これも慣れれば防犯だと思えばよい。……いや、良くなかった。この廊下、誰も歩いていないのに、ギシギシと音がしていた。
古い家は、音もよく鳴り、軋みもするが、この廊下は何か歩いている。
車を敷地内に運び、風呂をいただこうとすると、昂が真っ青になっていた。
「昂?何かあったの?」
「いや、あの子。笑っていた」
あの子と、布団に寝かせられたご遺体を見てみると、笑顔になっていた。
かなりの美人であるが、笑うと怖い。犬歯が長くて、口が大きいのか。口元を直して穏やかな笑顔にしてみた。
「昂、風呂に入ってしまおう」
最初のコメントを投稿しよう!