『恋という死に至る病』

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 昂は、あっさりとしていた。でも、愛妻ではないだろう。  昂は、手に持った天婦羅を食べると、再びどこかに歩いていた。そして、皿に盛られた天婦羅を持ってやってきた。 「頂きました。どこかに座って食べましょう」  縁側に座って天婦羅を食べていると、酒も進められたが、丁重にお断りした。車を運転するかもしれないので、酒は飲めない。 「明日、葬儀社がこちらに参ります。この近くで、宿泊できる場所はありますか?」  俺は、この家の主人に声を掛けてみた。奥で、テレビを見ていて、妙に安心した。ここにも、ちゃんと文明がある。 「添い寝?でしょう」  「でも、二人おりますし。添い寝は、川の字でしょうか」  それでは、親子のような感じもする。 「そうですね……」  主がやや考え込んでいた。俺は、ついつい、後ろのテレビを目で追ってしまった。  大型の画面に映っているのは、ニュースであった。高速道路で事故があったと、大きく報道していた。場所を見ると、案外、ここから近い。  高速で急ブレーキをかけたトラックが横転、そこに後続車が突っ込んでいった。道幅一杯に横転したトラック、しかも回転したらしく、木もなぎ倒されていた。十数台を巻き込んでの大事故であった。 「もう一組、布団を用意いたしますよ。泊まってください」  それにと、主人はテレビを指差した。 「高速は閉鎖されていますよ。帰れませんよ」  高速から降りて、かなり走ったと思うが、確かに高速が使えないのは不便であった。 「風呂も用意しています。浴衣で良ければ、私のを着てください」  それは、ありがたいような迷惑のような感じであった。  古い民家であったが、あちこち改良していた。居間にはソファーがあるし、風呂は薪ではない。  廊下を歩くとギシギシと音を立てるが、これも慣れれば防犯だと思えばよい。……いや、良くなかった。この廊下、誰も歩いていないのに、ギシギシと音がしていた。  古い家は、音もよく鳴り、軋みもするが、この廊下は何か歩いている。  車を敷地内に運び、風呂をいただこうとすると、昂が真っ青になっていた。 「昂?何かあったの?」 「いや、あの子。笑っていた」  あの子と、布団に寝かせられたご遺体を見てみると、笑顔になっていた。  かなりの美人であるが、笑うと怖い。犬歯が長くて、口が大きいのか。口元を直して穏やかな笑顔にしてみた。 「昂、風呂に入ってしまおう」
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