『恋という死に至る病』

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 疲れているので、早く眠ってしまおう。  風呂に行くと、風呂は離れになっていた。建て増しで風呂を追加したのであろう。離れにある分、大きな風呂であった。  風呂の浴槽は、今はなつかしい、タイル貼りのもので、水色の細かいタイルに花の模様が組み込まれていた。 「いいね、これ」  とても落ち着く。可愛い容器のシャンプーやコンディショナーもあって、ここに娘がいた痕跡がある。  窓を開けると、真っ暗な夜に、生垣が見えていた。  生垣の向こうは道になっているようで、そのはるか遠くに、隣家の光が見えるような、見えないような微かさで存在していた。  そこに白いワンピースが、走り去った気がした。白いワンピースは、先ほど、綾里を見てしまったため、刷り込みが入ったのかもしれない。でも、何かが横切った。  湯船に浸かってみたが、寒くなってきてしまった。 「出る」  綾里の眠る部屋に戻ると、布団が追加で一組、敷かれていた。  綾里はここに居る。ならば、走り去った影は何であった。  そもそも、綾里は病気で亡くなったと聞いたが、何の病気であったのだろうか。  白い肌であるが、これは、元々の肌の色で、不健康な色ではない。それに、手足も筋肉がしっかりついている。生きていれば、昂よりも、元気な女子であっただろう。 「恋の病でしょうかね?」  こんな美人なのに、恋で悩むのだろうか。 「こんなに綺麗な子が、恋で悩むのかな……」 「……遊部さんは、どうですか?悩みばっかりでしょう?」  俺は、恋の悩みではなく、人生に悩みが多い。その前に、比べる方がおかしい。この美女と俺とは、比較しても意味がない。 「……恋できないという、恋の悩みかな」  全力で恋したいのに、相手がいないという悩みならあり得る。こんな田舎で、運命の相手など考えられないだろう。  こんな美人ならば、ドラマのような恋がしたいのかもしれない。 第二章 花は何故もなく咲く二  添い寝といっても、綾里の隣に敷かれた布団に、二人で寝転んでいた。綾里は、見ていると、更に美人に見える類で、生きているうちに会いたかった。顔の美しさを知ると、足の細さを見つけ、手の指の長さに感嘆する。これで、ピアノなど弾いてくれたら、まるでマンガの美少女だと想像してしまう。  美しいというだけで、周囲から観察されてしまっていたのだろうか。俺だけが、興味を持ってしまうのではないだろう。
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