8人が本棚に入れています
本棚に追加
ガラリッというドアを開ける音に僕は顔を上げた。
そこには、そう。君が立っていたんだ。
木造の芸大のサークル室。その歴史は大学創立以来である。
ペンキがはげている部分はあるが、綺麗に維持されている方だと思う。
白を基調とした塗装。この建物で数多くの学生が笑い、泣いて、飲んで、語ってきたのであろう。その時間ですら、古い建物にしみ込んでいるようだ。
シンプルな建物の造りとはうらはらに、ところどころに家具や意味の分からない作品らしきものがひしめき合っている。混沌としているのにも関わらず、心地よい空間。
今も学生の賑やかな音が聞こえてくる。
ドアの近くに立っていた僕だけが、君の姿に気がついたらしく、サークル室ではみんなの騒がしい声がやむことは無かった。きっと僕はこの瞬間にどうかしてしまったのだろう。
君がドアから姿を表した瞬間から…。
ドアを左に壁越しに作業していた僕の、左の視界の隅に微かに映った彼女の姿を追いかけるように、僕は屈めていた体を起こした。君の顔が、手が、ズームに、そしてスローモーションに見えた。
最初のコメントを投稿しよう!