第2章

6/10

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 本当の幸せを手に入れると、消えてしまうなんて、恐ろしくて悲しい呪い。  もっと早く知っていれば……。  ……知っていれば?  ううん、知っていても、きっと私はフロリアを好きになっていたと思う。  そして、きっとフロリアも。  これはきった、逃れられない運命だったんだ。  だったら……そんな呪い、私が祓ってやるわ!  だけど……。  ただの人間の女の子である私に、いったいなにができるというんだろう……。  私はそっと、フロリアの頬に触れた。  耳の白い羽、長いまつげ、すっと伸びた鼻の線、そして、閉じられた唇。  「……」  昔々のおとぎ話。  呪いにかけられて眠りについたお姫様は、王子様のキスで目覚めるの。  胸のペンダントを握り締めて、自分の唇をフロリアの顔に近づけた。目をつぶり祈る。  少女趣味かもしれないけれど、お願い、このキスで呪いが消えますように……!  私は、フロリアの唇にそっと口付けた。  「んっ……」  だけど、フロリアに何の反応もない。  「どうしたの、フロリア。いつもみたいに、お目覚めのキスをせがんで……そして私を困らせて……」  頬、額、鼻……最後に、指で唇に触れる。  唇は微かに温かくて、それがますます切なくなった。  「だってまだ、温かいよ、フロリア。目を覚ましてよフロリア……」  見つめれば見つめるほど、悲しくなってくる。  これが運命だって言うの? 呪いだって言うの?  フロリアと私は幸せになれたじゃない。  確かにフロリアやフロリア一族は、たくさんの過ちを犯したのかもしれない。 だけど、人の幸せを奪う権利なんて誰にも無いのよ。  やっと、手に入れた物を奪うって言うの?  「ねぇ、フロリア……フロリア……」  フロリアの羽を優しく引っ張る。  ねぇフロリア。 私今貴方に好きだって言っているのよ。  早く目を覚まして、返事をちょうだい?  零れた涙が、羽に落ちる。  「…………」  「ん?」  今、私の涙が羽に触れたとき、少しだけ表情が動いた気がした。  「……そうよ、私、勘違いしていたのよ」  ペンダントをぎゅっと握りしめる。  呪いを打ち破るのはキスなんかじゃない。  想いなのよ。  相手を思う気持ちが、呪いを打ち破るんだわ。  その私の気持ちを受けたように、ペンダントが優しい光を放つ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加