第2章

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 今なら、そう、今ならきっとフロリアを取り戻せる。  「んんっ……」  フロリアの唇にキスをする。  戻って来て、フロリア。  どんなことだって、どんなものだって、すべて私は受け入れる。  だから、帰ってきて。私のすべてを貴方にあげる。 だから、帰ってきて……。  精一杯の気持ちを込めて、ぎゅっと目を閉じた。  「………………んんっ」  身体の下で、身じろぎする気配。  「フロリア!」  「……唇だけじゃなく、君は涙さえも甘いんだね」  そう言って、私の頬を撫でる。  「フロリア、目が覚めたのね! 戻ってきたのね」  「お目覚めのキスは王子様からと相場が決まっている物だよ。それなのに、王子様の寝込みを襲って唇を奪うなんて……本当にいけないお姫様だ」  そう言って微笑むフロリアの顔色は随分良くなっていた。  「ご、ごめんなさい」  「謝ることもないよ。たまにはお姫様からキスをして貰うもの悪くないものさ」  相変わらずの口調も、依然と変わりがない。  「よかった……フロリアだ……ううっ……本当に本当に、フロリアが帰ってきたのね……ううっ」  次々に溢れだす涙。今度は嬉しくて、止まらない。  「そんな風に泣かれると、困ってしまうな。それに、どうせ泣くなら、ベッドの上よりも、僕の腕の中で泣いて欲しいよ」  フロリアはそう言って体を起こすと、私を抱き寄せる。  「さっきまで僕は、暗くて重い深海の底を漂っていたんだ。ずっと長いこと抜け出せなくて、もうダメかと諦めていたんだ……。 だけど、そんな時、君が見えたんだ。君の差し出す手が、光が見えた気がして……それに触れた途端、ここに戻ってくることが出来たんだ」  「ううっ……フロリア……」  その存在を確かめるように、フロリアの服をぎゅっと掴む。  「おやおや、僕はちゃんとここにいるんだから、もう泣きやんで、かなた。 そうしないと、君の鼻が心配だよ」  慌てて、下を向く私。  どうしよう、ずっと泣いていたからすごい顔になっているかもしれない。  こんな顔、恥ずかしくて、フロリアに見せられないよ。  「どうして下を向くの? 久しぶりに君のかわいい顔を見せてくれないかい?」  「だめだよ、こんな顔見せられないもの……」  「僕が見たいってこんなにお願いしても?」  そう言うとフロリアは私の耳にキスをした。
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