第2章

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 「だめ、だめ……絶対に見せられない!」  「ふむ……強情だ」  そう言うと、フロリアは私の耳を引っ張る。  何をしたって、こんな顔フロリアには見せられなんだから。  「じらす子にはお仕置きが必要だね……あむっ」  「!!」  真っ赤になって耳を押さえる私。  「フロリア、い、今……私の耳、ガブッ噛んだでしょ」  平然とした顔をしてにっこりと笑うフロリア。  「言うことを聞かない子猫にしつけをするとき、耳を噛むんだよ。知ってた?」  「し、しりませんっ!」  本当、時々、とんでもないことをするわよね、フロリアって。  「……やっと顔を上げてくれたね。僕の子猫ちゃん」  「フロリアが意地悪するからでしょ」  「意地悪なのは君の方だよ。こんなにかわいい顔を僕に見せてくれなんだから」  「だって、こんなぐちゃぐちゃの顔を見たら……百年の恋も冷めるよ」  「僕の君への恋がそんなに短い物だと思っているのかい? 心外だね」  ちょっと不機嫌な顔のフロリア。  そうだった、魔物のフロリアにとっては百年なんてきっと瞬きのうちにも入らないんだ。  「……人間にとっては一生って言う意味なの」  「一生分の恋も冷める、ね……それはなかなかいいフレーズだ。でも、やっぱり心外だね」  ぐいっと、私のあごをあげさせるフロリア。  その目はとても真剣で、吸い込まれそうになる。  「僕の君への想いが冷めることなんてあり得ないよ。だって、どんな顔だって、君はとびきり綺麗だ」  「そんなこと言って……んんっ」  不意打ちのキス。  「……ましてや、僕の命を救ってくれた泣き顔ならば、一生分でも足らないよ」  いつもの甘い言葉に隠された、フロリアの中に眠る情熱。  「フロリア……」  唇に残る、ちょっとしょっぱくて甘い感触に、胸が熱くなる。  「でも、やっぱり君の笑顔が見たいな。そのために、僕は帰ってきたんだから」  そうよね、私たち、ちゃんとここにいるもの。いつまでも泣いてなんかいられないわよね。  「お帰りなさい、フロリア」  涙をぬぐい、フロリアのほしがっていた一番の笑顔を向ける。  「ただいま、かなた」  フロリアも、私をぎゅっと抱きしめ、今までで一番の幸せそうな笑顔をくれた。  「ねえフロリア、あれから体調はどうなの?」  「悪くはないよ、ただ……少しだけ、違和感があるんだ」  「違和感?」
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