第1章

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原田武志は、この頃、何か、妻の佐知子の様子がおかしいと思う。実は、新婚当時から、何か佐知子は人と違うとは思っていた。どこがどうというのでは無いのだが、心の中の片隅で引っかかるのだ。 身体の具合が悪いのかな?ちゃんと食べているのかな?武志は、朝早く出勤して、帰りはかなり遅い時間になる。だから、妻の佐知子と食事を共にすることは無い。休日は起きるのが遅いから、妻が既に食事を終えた後にブランチを取る。問題は休日の夕食だ。佐知子は、食欲が無いとか、お腹の調子が悪いとか、間食したからとか理由をつけて、共に食事を取ることが無くなった。どこがどうと考えるほうがおかしいのかも知れないと、自分を納得させようとした。それと、もう一つ、家の中から、ゴキブリなどの虫が減ったような気がする。 ある日曜日、武志はリビングのソファーに横になり、昼寝をしていた。佐知子は隣のダイニングテーブルに座って週刊紙を読んでいる。武志はやがて目覚めたが、黙って佐知子の横顔を見つめていた。その時、ブーンと鳴いて、大きなハエが佐知子の目の前に飛んできた。武志が佐知子がどうするかと見ていると、ハエがサーッと逃げようとした時、佐知子の首がスルスルスルと伸びて、ハエを追った。そして、カメレオンみたいに舌がクルクルクルと伸びたかと思うと、ハエをからめ捕って、クルクルクルと口に入れた。それを佐知子はむしゃむしゃと食べたのだ。それからスルスルスルと何事も無かったように首はもとに戻った。 武志は器用なものだと思った。 虫がいなくなった理由も、佐知子が食事をしない理由もわかった。武志は、そのまま寝たふりを続けた。 ま、いいか!騒ぎたてて夫婦関係を壊すことも無いか! そう思った。 虫もいなくなるし… かくして、今日も佐知子は虫取りに余念が無い。 これで家庭が平和なら、ま、いいか! 武志は、そう思った。
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