第25章 彼女達の矜持

2/5
前へ
/158ページ
次へ
「え? 何かに引っかかって」 「おい、押すな!」 「何立ち止まって、うわあぁぁっ!」 「像が!」  先程リディアが張っておいた鎖に先頭の一人が身体を引っかけ、次々に後続の者が彼にぶつかって動きが止まる事になった。そして押されて引っ張られた鎖は切れずに、そのまま一端を結び付けている壁際に飾られていた等身大の女神像を、彼ら目がけて引き倒す。その女神像が倒れて砕ける衝撃音を聞きながら、二階の上がり口にある非常扉を締め切ったリディアは、施錠しながら遠い目をしてしまった。 「……大惨事ね。後始末が大変そうだわ」 「取り敢えず、これでもう少し時間は稼げそうですが」 「稼げなかったら困るわよ」  そして真剣な顔付きのまま、リディアは上がって右側の通路の先にある扉に向かって走り、その扉を叩きながら、中の王妃の私的エリアに向かって呼びかけてみた。 「レナ、アイーシャ、そこにいる?」 「はっ、はい!」 「暫く奥に下がっていなさい。何が聞こえても、こちらに出て来たら駄目よ!?」 「分かりました!」  きちんと二人が指示通りに行動していた事を確認したリディアは、安堵して再び中央階段まで戻った。するとまだ懲りないのか、扉の向こうか怒りの声と衝撃音が響いてくる。 「副隊長!」 「分かってる!」  この間に左側に進んでいたアルティナは、非常扉を殆ど閉め終えており、鋭い声でリディアに呼びかけた。そして彼女が扉から王太子妃の私的エリアに滑り込むと同時に、階段の上がり口にある扉が破壊された音が聞こえる。それを無視して、アルティナはさっさとその扉も施錠し、更に奥へと進んだ。 「いい加減諦めれば良いのに、しつこいわね」  思わず悪態を吐いたリディアに、並んで早足で進みながらアルティナが応じる。 「マルケスは副隊長に、身元がバレていますし。引っ込みがつかないのは分かりますが」 「でもそれにしても、そろそろ王宮内の当直者がここまで様子を見に来ても良い筈なのに、何をしているのかしら?」 「そうですね。少し手間取り過ぎです。今までの非常扉はあくまで危険回避の時間稼ぎの物で、立て籠もる為の物ではありませんから」  そして一番最初の取り次ぎの為の部屋に足を踏み入れながら、アルティナは密かに王宮内の警備体制についての不信感を、微妙に増大させていたが、そこに予想とは異なって無人では無かった為、困惑した顔で声をかけた。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

277人が本棚に入れています
本棚に追加