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「アルティナ、来るわよ!? え?」
視線の先にいたアルティナが、灯り用に廊下の両側の高い位置に設置されているランプを、線状鎖を放って次々割り落としていたのを目にしたリディアは、その豪快さに思わず顔を引き攣らせた。しかしアルティナは、叩き落したランプが廊下でくすぶっているのには目もくれず、彼女を笑顔で出迎える。
「副隊長、時間稼ぎ、ご苦労様です。取り敢えず騎士団本部詰め所への、緊急連絡の紐は引いて固定しておきました」
「それは良いんだけど……、これは何? あの木箱に入っていた物よね?」
「はい、そうです」
かなり薄暗くなった正面階段の手前で、弓を横に寝かせた上、間隔をあけて三つ重ねた形に見えるそれを発見したリディアは、困惑も露わに問いかけた。しかしアルティナが、事も無げに答える。
「バネの力を利用した、複式三連弾自動弓です。一度にこの通路の幅一杯に狙える複数の矢をつがえる事が出来る上、上中下三段階の高さで狙える優れ物だと、カーネル隊長から説明を受けました」
「緑騎士隊って、本当に何を作っているのよ……」
思わず頭を抱えたリディアだったが、ここで一際高い破壊音と共に、扉の取っ手の付近が破壊されたのが、遠目にも見て取れた。
「副隊長、来ます!」
「取り敢えず、ある物は最大限有効に使いましょう。使い方は分かっているわね?」
「はい。最後の灯りを消します! 連中がすぐにこれに気が付かない様に、副隊長は最初は前に立って注意を引いて、声をかけたら横に避けて下さい」
「分かったわ」
そして素早く役割分担を決め、アルティナは残しておいた至近距離のランプを鎖の先端の重りで叩き割り、リディアは剣を抜いて弓の前に立った。
「居たぞ! まず生意気なあの女から、血祭りに上げろ!」
薄暗がりの中でその姿をマルケスが、先頭に立って怒声を発しながら一直線に突進して来たのを見て、アルティナは即座に安全装置を解除してから、リディアに声をかけた。
「副隊長!」
「お願い!」
そして彼女が即座に横に飛びのくと同時に、アルティナが装置の端を左手で掴んで押さえながら、右手で一つの取っ手を素早く引き下ろす。
(さあ、来るなら来なさい。愚者に踊らされた馬鹿どもが!)
彼女が心の中でそんな悪態を吐くと同時に、平均的な男性の肩や胸の高さ目がけて、勢い良く複数の矢が横一列で飛んで行った。
「ぐわぁっ!」
「なっ、何だ!?」
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