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「矢が飛んできたぞ!」
薄暗い中で、自分達目掛けて飛んできた矢を避けきれず、まともに身体に刺さってしまったらしい何人かが、たまらず悲鳴を上げた。しかし戸惑ったのも一瞬で、廊下に怒声が響き渡る。
「頭を低くしろ!」
「機械仕掛けなら、微細な調節はきかない筈、ぐあぁっ!」
慌ててしゃがみ込んだ男達だったが、続けて二射目が飛んできた。しかも先程よりは低い、人の腰の高さ付近を狙って飛んで来た為、屈んだ彼らはまだ避けきれずに、何人かに命中する。
「伏せろ! 低い位置も狙っ、つうぅっ!!」
「このっ!? 一旦物陰に隠れろ!」
更に容赦なく、三射目は膝の高さ程を狙ってきた為、また命中した者が出たらしく、マルケスは廊下の端に走って移動し、ドアを開けてその陰に体を隠した。その隙を見逃さず、この間アルティナの背後に回り込んで階段に到達していたリディアが、閉めかけた非常扉の間から叫ぶ。
「アルティナ!」
「はい!」
そして男達には目もくれず、アルティナが扉の隙間から駆け込むと、リディアはすぐにそれを引いて扉を閉め、内側から鍵をかけた。そして、隔離された形になった階段を上がりながら囁き合う。
「取り敢えず何人かは、戦闘不能にできたかしら?」
「そうですね。それにかなり強い麻痺を引き起こす毒を、全部の矢に塗ってありますから、命に別状は無くても、まともに動けなくなる筈ですし」
「そう言えば緑騎士隊って、武器だけではなくて、特殊な薬品とかの抽出や調合とかもしているって、以前聞いた事があるけど……」
半ば呆れながら呟いたリディアだったが、すぐに気を引き締めた。
「そんな事、今はどうだって良いわ。取り敢えず応援が来るまで、どうにかしてここを持たせないと。どう考えても、口封じに殺されるのが確実だもの」
「そうですね。副隊長、取り敢えずこの鎖をあの像の首辺りに巻き付けてから、こっちの手すりに渡して結び付けて、ここを上がって来る連中の進路を妨害して貰えませんか?」
「分かったわ」
そして階段の扉の向こうで駆け寄る気配と物音を聞きながら、リディアが受け取った糸状鎖での作業を済ませて振り返ると、アルティナが階段から踊り場に上がった場所に、かなり広範囲に見慣れない物をばら撒いていた。
「ところで、この鎖は分かるけど、何を床に落としているの?」
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