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「これは四方針と言いまして、どう転がしても放射状に伸びた四本の針の一本が、真上に突き出る構造になっているんです」
「なるほど……、確かに効果的ね。踏みつけたら痛そうだわ。革靴でも意味ないでしょうし」
鋭利な先端を見下ろしながら、無意識に顔を顰めつつ感想を口にしたリディアだったが、腰から下げていた袋の中身を全て床に落としたアルティナは、それを等間隔に配置しながら解説を加えた。
「はい。どの針の先にも小さな棘が左右に付いていますから、一度刺さったら周囲の皮膚や肉をえぐらないと、なかなか抜けない優れ物だそうです」
それを聞いたリディアは、心底嫌そうな表情になった。
「……やっぱり緑騎士隊って、ろくでもないわね」
「副隊長、それはあんまり」
「しっ! また来るわよ?」
「ええ、それじゃあ、さっきの打ち合わせ通りに」
階段の扉を手斧で破る音と共に、向こう側に強引に引き開かれるのを見たリディアは、手すりの陰に屈み込みながらアルティナに注意を促した。対するアルティナも素早く身を隠すと同時に、男達が足音荒く駆け上がってくる。
「手間かけさせやがって!」
「リディア、どこだ!?」
しかし勢い良く踊り場に踏み込んだ途端、複数の悲鳴が上がった。
「ぐあっ!? 何か踏んだぞ!」
「いてて、何だ、これは!?」
そこですかさずアルティナ達が手すりの陰から飛び出し、予め把握しておいた四方針が無いスペースに足を踏み入れながら、片足を上げて針を抜こうとしている男達を、渾身の力で突き飛ばす。
「目が節穴ね!」
「ここに居るわよっ!」
当然バランスを崩した男達は、背後にいた仲間達を巻き込みながら、踊り場から転げ落ちた。
「うおっ!」
「危ない!!」
「うわあぁっ!」
それを見届けたリディアは、先程踊り場を横切る様に張った鎖の下を潜りながら、アルティナに叫ぶ。
「アルティナ!」
「今行きます!」
「ふざけるな! 待ちやがれ!」
さり気なく屈みながら鎖を潜り抜けたアルティナを、完全に頭に血を上らせた男が階段を駆け上がって追った。そして踊り場の床を確認し、足下に先程の四方針が無い場所を確認した彼らが、勢い良く二階に続く階段を駆け上がろうとする。しかしすぐに、その動きが止まった。
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