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「ユーリア? グレイシア様? どうしてここに?」
てっきり奥の部屋に避難していると思っていた、上級女官の制服を身に着けた二人にアルティナが怪訝な顔を向けると、ユーリアが真顔で報告してきた。
「マリエル様はセレーナ王女殿下と一緒に、妃殿下の寝室で待機して貰っています。他の当直の侍女も、全員避難済みです」
「ええと、ご苦労様。あの、あなた達も下がってくれて構わないんだけど……」
当然の如く自分達を待ち構えていた二人に、アルティナはそう声をかけたが、彼女達は落ち着き払って言葉を返した。
「他の近衛騎士の方々が駆けつけるまで、できるだけ時間稼ぎをする必要があるんですよね?」
「お二方は最後まで、力を温存していて下さい」
「温存って……」
それを聞いたアルティナが呆気に取られていると、結構大きなテーブルに所狭しと並べられている物を指差しながら、リディアが困惑も露わに尋ねた。
「あの……、先程から気になっていましたが、これらは何でしょうか?」
その疑問に、グレイシアが真顔で答える。
「賊に向かって投げつけるのに、手頃な大きさと重さの物を選別して、今日一日かけて後宮中からかき集めておきました」
「ええと……、取り敢えず用途は分かりましたが、これを誰が投げつけると?」
「私です。剣は扱えませんが、物を投げる事には些か自信がありますので」
「…………」
どこからどう見ても貴婦人然としたグレイシアが、淡々と事も無げに語った内容を聞いて、アルティナ達は無言で顔を見合わせた。するとユーリアが、焦った様子で他の三人を促す。
「ほら、扉を破られそうですよ!? 私、窓を開けます! 皆を呼び集めていますので!」
「あ、ちょっとユーリア!」
窓に駆け寄った彼女をアルティナが呼び止めようとすると、リディアが胡散臭さそうに尋ねる。
「……呼び集めてるって、何を?」
「鳥、ですけど……」
「鳥をどうするのよ?」
「ええと、それは……」
そして懐疑的なリディアにアルティナが説明しようとした時、ドアが蹴り上げられる勢いで開き、マルケスが怒鳴りながら室内に足を踏み入れた。
「リディア!! 貴様、随分とふざけた真似、ぐあっ!!」
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