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しかし手元のガラス製のペーパーウエイトを掴んだグレイシアが、無言で振りかぶって彼の顔面目掛けてそれを投げつける。一直線に飛んでいったそれは見事にマルケスの眉間に命中し、まともにその衝撃を受けた彼は、さすがに顔を押さえて膝を付いた。
「うわ……」
「今、凄い音がしたわよね」
「直撃しましたし、どう考えても結構な衝撃ですよね」
女達がグレイシアの背後で囁き合う中、次にマルケスを押しのける様にして前に出てきた男の顔に、花瓶らしき物が激突した。
「この、女ぁっ! ぎゃあぁっ!」
複数の破片に砕け散ったそれを足元に撒き散らしながら、うずくまった男を見て、アルティナ達は驚きを通り越して、感心した様子で感想を述べ合う。
「景気良く割れたわね……」
「陶器製だし。でもあれ、結構良い値段じゃないかしら」
「破片で、怪我をしそう。まともに目に当たったみたいだし」
しかし背後の戸惑いなど物ともせず、グレイシアは無表情のまま両手で得物を掴み、次々と躊躇わずに室内に足を踏み入れた男達の顔目掛けて投げつけた。
「おい、一気に、げはっ!」
「大丈夫、ぐぁっ!」
「両利きって、凄いわね」
「どうして彼女にこんな特技が?」
半ば呆れながらリディアが疑問を口にすると、ユーリアは少々困ったように説明した。
「ご本人からチラッと聞いたんですけど、子供の頃からストレス発散として、お屋敷の塀に向かって色々投げつけていたとか。それがバレない様に遠距離から投げる事にしていたら、飛距離やコントロールが自然に身に付いたそうです」
「れっきとした侯爵夫人の称号を持っている、女性のする事としてはどうなの?」
「どういう環境で育ったんですか」
アルティナ達が本気で頭を抱えていると、用意した物を全て投げ終えたグレイシアが、素早く引っ込んでユーリアの後ろに回った。
「ユーリア、後はお願いします」
「お任せ下さい!」
それを見た男達が憤然としながら、ふらつき気味に立ち上がる。
「もう投げる物は無いらしいな!」
「随分ふざけた事をしてくれたな! 全員纏めて、ぶっ殺してやる!!」
「皆さん、頭を低くして下さい!」
「え?」
「良いから早く!」
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