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不必要に長居して油を売っていると周囲に思われない様に、クリフは頃合いを計って取り次ぎ所を後にした。そして「取り敢えず変な動きは無さそうだな」と呟きながら、執務室が連なっている内宮に戻って廊下を歩いていると、正面から旧知の人物が書類の束を抱えたまま、駆け寄ってくる。
「シャトナー次席書記官!」
その声に、思考の中に意識を埋没させていたクリフは、軽く顔を上げて相手を認識し、かつての同僚に向かって明るく声をかけた。
「やあ、アズリング。頑張っている様だな。だが俺はもう次席書記官じゃないぞ? 今その地位に居るのはお前じゃないか」
しかし傍目には出世頭と目される同年輩の男は、喜ぶどころか自分の不運を嘆き始めた。
「やってらんねぇぞ! 端から見ていても大変だなとは思っていたが、本当に何なんだあの連中!? お前、これまで良くあいつらの面倒を見てこられたな! 仕事を下に丸投げする癖に、上げた書類を平気で無くすわ締め切りはハナから無視するわ。挙げ句に総責任者なのに計画策定が穴だらけだし、フォローしきれねぇぞ! 徐々に他の部署からのクレームが増えてるんだ! 頼むから早くうちに戻ってきてくれ!!」
自分が更迭まがいの人事を受けて、その後任に命じられた時はほくそ笑んでいた男が、これまでの取り澄ました口調をかなぐり捨てて迫ってきた為、クリフは爆笑したいのを必死に堪えた。そして傍目には神妙な顔付きで応じる。
「愚痴位なら幾らでも聞くが……。恐れ多くも俺は内務大臣から、勤務態度が悪いと指摘されて配置換えになったわけだし。今更、復帰の目など無いだろう」
「それに関しては、主席秘書官殿も『シャトナーが非を詫びて頭を下げるなら、取りなしてやる』と言っているから!」
「だがな、アズリング。俺は自分の行動や勤務態度の、どこがどう悪かったのか、考えてみても未だに分からないんだ」
「それは……、確かに俺達にも分からんが……」
相手が口ごもった隙を逃さず、クリフは冷静にたたみかけた。
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